モンローズ(Mont rose:バラ色の山)という可愛い名は、この荒れ地一帯に茂るヒース(heather)が春になると花が咲き、丘一面がピンク色に染まったことこから来ています。もともとはカロン・セギュール候の領地の一部でしたが、その後テオドール・デュムランという人の手に渡り、1866年にアルザス出身のワイン造り屋マテュー・ドルフェスという人が買い取りました。このドルフェスは理想的ともいえるワイン造りで、畑と醸造所に惜しみなく金を注いだばかりでなく、従業員の給与改善・福祉厚生にも気を配り医療施設まで造り、ブドウ畑を中心に組織的に計画された小さな密度の高い集団を形成しました。フィロキセラという害虫が1860年〜1890年にヨーロッパに蔓延し、殆どのブドウ畑が全滅した時でもドルフェスは害虫との戦いに湯水の如く金を使い、当時掘った735フィート（=220m）の井戸は今でも残っています。【注１】　またジロンド川に近いため、気温が下がる季節でも川面の光の反射熱の恩恵を受け、高台にあることも幸いして霜害から逃れられるという利点があります。1991年にボルドーのワインの殆どが霜害に遭った時もその影響を受けませんでした。土質も他のメドックワインに比べて粘土質が少し多めで、そのことが高い保水性を持つことになりブドウの成長に好影響を与えています。

「ワインジャーナル」Neal Martinは、年代別の垂直テイスティング(vertical tasting)を行った結果、サンテステフのワインの中ではシャトーモンローズが一番安定していると断じています。なおvertical tastingとは、例えばシャトーモンローズの1996年、1998年、1999年、2000年というように異なる年代のワインを複数本飲み比べて、収穫年による違いを見ることです。他方異なった地域で性格の似通った同一年のワインを飲み比べることを水平テイスティング(horizontal tasting)と言います。例えば1996年のシャトームートンロッシールト（仏）、シャトーラフィット（仏）、オーパスワン（米）、ソライア（伊）を飲んで、それぞれの出来を比較し合ったりします。

Upon re-evaluating my notes it was amazing how consistent the wines from Montrose have been; this estate more so than Chateau Calon-Segur or Chateau Cos d`Estournel. Whilst the first has the heart on the label and the second has the exotic history, it can be argued that Chateau Montrose is the greatest Saint Estephe. That opinion was reinforced when I organised a vertical tasting in October 2003.　(http://www.wine-journal.com/index.html)

私のテイスティングノートを読み返してみると、モンローズは驚くほど品質が安定している。このシャトーのワインはカロンセギュールや、コス・デストゥネルなどと比べると、年代による出来不出来の差が非常に少ない。カロンセギュールはハートのラベルで、コスデストゥネルはその異国情緒豊かな歴史で有名であるが、モンローズこそはサンテステフで一番偉大なワインではないかという私の考えは、2003年に垂直テイスティングをしたことで、ますます確信を深めた。

シャトーモンローズは力強さと複雑さと繊細さを兼ね備えており、長期の熟成に耐えることが出来ます。1986年以降カベルネソービニオンの比率を落としたことからより口当たりが良くなって、熟成した軽やかなタンニンと深い色調と芳醇な香りを特徴とします。私はこのワインでカベルネソービニオンが持つ典型的なカシスの香りが、時間とともに木材の香りのような感じになっていくのを体験しました。昔風のクラレット（英語でボルドーワインを意味します）ということで、特に英国人に人気があるようです。このブドウ園はモンローズと子羊の柔らかい腿肉を合わせることを推奨しています。【注２】