１．キスヴィンワイナリー

山梨県甲州市塩山で5ヘクタールの栽培面積を持つブドウ農家三代目の荻原康宏氏は、2009年にKisvinを設立し、高品質な醸造用ブドウ栽培を目指し、2013年からワイン出荷を始めています。因みにKisvinとは Kiss Vineyard（ブドウ畑の土にキスするくらい、ブドウを愛している）との想いが込められているそうです。荻原さんはウエッブサイトでその熱い想いを次の様に語っています。【注１】「光合成、植物ホルモン、根域と葉面積バランスの保持等、ブドウの生育に関する植物生理学の概念が私たちの栽培管理の中心です。また科学的な見地に立ち、土壌分析装置での細かな分析をもとに土壌、施肥管理を行い、草生栽培（＝土の耕起を行わない）による土壌管理を実施しています。高品質のブドウが出来さえすれば醸造とはシンプルかつ平易なものである、という考えの下、醸造家自らも日常的に畑へ出向き、スタッフと連携しつつ栽培管理に加わっています。特に収穫時期には果実の成分分析を細かく実施、ブドウの適熟期に収穫を行うことを第一としています。」

２．醸造家：斎藤まゆ氏

この「醸造家」とは伝説のソムリエ故ジェラール・バッセ氏【注２】に絶賛され、自らのSNSで全世界に紹介するほど評価された斎藤まゆみさんです。2017年に来日したバッセ氏は彼女が醸造した「キスヴィンシャルドネ2014」を口に含んだ時の第一声が、「なんだ、これは！うまいじゃないか！」だったそうです。「このワインはどの位造っているの？」と聞かれた齋藤さんが、「年に1700本位です」と答えると、バッセ氏は「OK、俺が1500本買う」と言ったそうです。信じられない！と胸の鼓動が高まった斎藤さんは「ごめんなさい、売り切れなんです」と答えた。「Oh…」と残念そうな表情を浮かべたバッセ氏は、スマホを取り出し、「名前は？」と斎藤さんに聞いた。「キスヴィン」です。「違う、違う、あなたの名前だ」「まゆ・さいとうです」。アルファベットの綴りを確認したバッセ氏は何事か打ち込んだ後に、斎藤さんは持参したピノノワールをバッセ氏に差し出して飲んでもらった。バッセ氏はそれをゆっくり味わい、納得した様子で斎藤さんの隣にいたワイナリーオーナーの荻原氏に、こう話しかけた。「あなたは良い醸造家をお持ちですね。彼女を辞めさせてはいけませんよ。彼女をキープしなさい」【注３】 斎藤さんは早稲田大学在学中に日本でのワイン造りを目指し、同大学を中退。カリフォルニア州立大学でワイン醸造学科卒業後、成績優秀により同校ワイナリーの醸造アシスタントに抜擢され、現地学生の指導にあたっていたそうです。その後はドメーヌ・ジャン・コレ、ドメーヌ・ティエリ・リシュー（いずれも仏ブルゴーニュ）などで研鑽を積み、2013年よりKisvinワイナリー醸造責任者となっています。【注１】

３．Wine　&　Dine

斎藤さんが、ご自身で手塩にかけられた6種類のキスヴィンワインについて語るのを聞きながら【右写真】、日本料理とのペアリングを楽しむ夕宴が、8月23日にパークハイアット東京のレストラン「梢」で催されました。ワインのイメージに合わせ、料理の流れから次に出るワインにも合うような工夫をした料理を出してくれた吉田料理長には、大きな拍手が沸き起こっていました。久々にコロナ自粛生活の鬱屈さを忘れる楽しいワイン会でした。ワインと料理に関して斎藤さん、吉田さんが解説してくれた内容を要約して記します。下記メニューの番号数値と対応しています。

Wine(斎藤）：私達の甲州ワイン１．２は、エメラルド甲州と私達が呼んでいる緑色のままの甲州ブドウから造る。ブドウの房に傘をかけて日光を遮り、収穫をギリギリまで遅らせてブドウの皮が緑のまま糖度が上がったブドウを収穫する。３．は28品種をブレンドして造っている。４．ピノノワールが女王ならロゼは王女。５．シャルドネは樽発酵による樽香が特徴。６．Kisvinのフラッグシップワイン。これからも進化するという約束の一本。

Dine(吉田)：ワインに合わせるため一つの料理に二つの味を持たせる工夫をした。７．は野菜の旨味と海老の旨味、８．は二種類の魚の唐揚げでクリスピー感を強調、９．は二種類の酢を使ってそれぞれに合う魚の酢飯にした。１０．鰻を白焼き、蒲焼きと二つの食べ方で楽しむ。１１．青万願寺と小芋を添えて肉の付け合わせに。１２．最後のピノに合うように蕎麦汁を胡麻味にした。