2023/01/01　アナグラム(Anagram)

明けましておめでとうございます。早いものでこのホームページを始めたのは2003年8月ですので、今年8月で20年目を迎えることになります。本年も「英語のジョーク」ホームページご愛読、どうぞ宜しくお願い申し上げます。

アナグラム（anagram）とは、英単語のアルファベットを入れ替えることによって、全く別の意味にさせる言葉遊びです。例えばGIANTNIPS (大きな乳首) という、いささか色っぽい単語ですがこれをPを頭に持って来てA-I-N-T-I(二つ目のI)-N(二つ目のN)-G-SとつなげるとPAINTINGS、即ちPaintings（絵画）になります。全く想像しなかった別の言葉となってしまいました。では次の10のanagramを考えてみて下さい。最初から正解を見てしまうと、なーんだとなってしまいますので、もし興味があるならアルファベットのカードを作って、あれこれ動かしながら首を捻って考えてみるのも一興です。そして最初の少しおかしな英語がまともな英単語になることを実感してください。

１.BUMNIGHT路上生活者の夜
２.COCKTRAP雄鶏用の罠
３.DEERNUTS鹿の睾丸
４.GIANTLOG巨大な丸太
５.HORNYMAC好色なマック
６.IRISHTARTアイルランド人の尻軽女
７.NEATPOLEござっぱりした棒
８.OILYPANTS油性のズボン
９.TWATREHAB 女性陰部再生
10.WOMANHITLER女性のヒットラー

【Answers正解】

1.Thumbing親指による演奏法
2.Crackpot 頭がおかしな奴
3.Dentures義歯
4.Gloating 満足げに眺める
5.Monarchy君主制度
6.Arthritis関節炎
7.Antelopeアンテロープ（日本名レイヨウと呼ばれる角のある哺乳類）
8.Ponytails 頭の後ろで髪を束ねる髪型。ポニーテイル。
9.Bathwater風呂桶の湯水
10.Mother in law 義理の母親

【日本語でもanagramしてみましょう】 平仮名で書いて順番を変えて全く違う意味にします。漢字で書くとよくわかります。 こうしん→しんこう（更新・行進・交信→信仰・侵攻・親交） ちゅうしょう→しょうちゅう→ ちょうしゅう（中傷・抽象→焼酎・掌中→徴収・聴衆）面白いでしょ？

2023/01/06　吉野鮨本店

東京日本橋で明治12年から営業している鮨の名店「吉野鮨」本店を訪れました。ここは大トロのマグロ握りを最初に出した店として有名で、16年以上前にこのホームページ（2006/03/28　まぐろ物語(1)）で詳しく説明したのですが【注１】、要点を簡単に紹介します。

今日目玉の飛び出るような高い金額で出されるマグロのトロも、江戸時代には一般には賞味されていませんでした。当時マグロはサンマ、イワシなどと同様いわゆる貧乏人が食べる下魚扱いされていたからです。明治・大正時代も鮨屋仲間では「アブ」と呼ばれていたマグロの脂身は歓迎されず、出前の鮨に無断で脂身の部分を入れたりすると、客から叱られたそうです。 ところが大正八年頃日本橋二丁目にあった「吉野鮨」が、当時ライバル店である京橋の「幸寿司」に対抗するため背肉より二、三割安いマグロの腹肉の脂身を商売物として売り出しました。値段が安かったことから「吉野鮨」の店内は押すな押すなの混雑になり、しまいには店の外に行列が出来るほどになったそうです。人気のマグロ脂身については「アブ」は語感が悪いし、注文する客によって霜降りだの、段だらだの、呼び方がまちまちでややこしいので、なんとか統一しようということになり、ある人が「口に入れるとトロっとするからトロにしては？」と提案したので、即決されたそうです。

三種類の鮪	鯛鮪蛸のお造り	玉子焼きとオ大トロ握り

現在五代目店主の吉野正敏さんに、お造り、お勧めのつまみ一品、そして本日お薦めの魚を12貫お任せで握ってもらいました。五代目店主のモットーは「鮨の原点は江戸時代のファストフードだ」、「うちの店には食べ方や順番などの決まりはない。お客様が一番美味しいと思う食べ方で味わってください」、だそうです。【注２】私のリクエストはマグロ三種（大トロ、中トロ、赤身）食べ比べと、最後にかっぱ巻きで締めて下さいだけでしたが、この他に鯵、イワシ、コハダ、ハマグリ、アナゴ、など飯台の上が無くなると、サッと一貫ずつ置いてくれる気持ちのよい握りっぷりでした。

平貝磯辺焼き	アサリ握り	カッパ巻き

【注１】「鮓・鮨・すし」（吉野昇雄：吉野鮨本店三大目著：旭屋出版1989年）吉野昇雄さんはお店で鮨を握りながら鮨の歴史的研究を続け、この名著を著し1991年85歳で没されました。

【注２】吉野鮨本店ホームページ

2023/01/11 80歳の壁

「80歳の壁」（和田秀樹著：幻冬舎新書）を読みました。著者は高齢者専門の精神科医で、東京杉並区の浴風会病院で認知症患者と対応しながら、80歳を超えても健康で楽しく過ごせる高齢者を「幸齢者」と呼ぼう、と提唱しています。日本人の平均寿命は男性81歳、女性87歳ですが、心身とも自立して健康でいられる健康寿命は男子72歳、女性75歳です。（2019年データ）つまりこの差である男性9年、女性12年は、寝たきりになったり、認知症で介助されなければ生きていけない年数なのです。80歳からの人生は「昨日迄出来ていたことが今日急に出来なくなる」、「症状のあるなしに関わらず癌になっている」、「否応なしに記憶力が衰える」など、その前の身体とまるで違ってきます。この80歳の壁を乗り越え「幸齢者」となって、残りの人生を楽しく過ごすためのコツを具体的に分かりやすく書いてあります。

第一章は「80歳を過ぎたら我慢しない。次の三つの我慢は直ぐに止めるべきだ。(1)病気を治そうと無理して薬を飲んで我慢する、(2)食べたいものを我慢する、(3)年だからと興味があること（例：女性）を我慢する」でスタートします。最終章の「幸齢者いろはカルタ」を読むと、(1)と：闘病より共病、(2)た：食べたいものは食べよ、(3)よ：欲望は長生きの源（みなもと）と、実に明解に答えています。

また認知症については、年を取ると筋力が衰えて運動が出来なくなるのと同じで、記憶の衰えの結果である認知症は誰にでも起こる現象であるとし、認知症は「スペクトラム障害」と呼ばれる軽度から重度まで幅のある障害なので、十把一絡げに「認知症」とくくり、「ボケたら何も分からなくなる」と見なすのは間違っていると指摘しています。興味深い実例として、著者が実際に担当した二つの認知症患者グループを次の様に比較しています。「杉並の浴風会病院と茨城県鹿嶋市の認知症患者を比べると、鹿嶋市患者の進行速度が遅いことに気付いた。それは杉並では家族が『恥ずかしいから』と患者を家や病院に閉じ込めるのに対し、鹿嶋市の患者は今迄と変わらぬ農業や漁業の日常生活を続けていたからであった。」【右写真：和田秀樹氏】

この実例から導かれる結論は『認知症進行を遅らせる最良の方法は頭を使い、体を動かし続けることだ』となります。 『使っていない脳細胞ネットワークはどんどん消失して行っても、鍛えれば80歳でも新たな脳細胞ネットワークが新設することが出来る。だから学びを止めたら老いが早まる』と頭を使い続けることと、『80歳を超える幸齢者にお薦めな運動はウオーキングである。毎日無理せず出来るし、自然の光に当たることでセロトニン（＝精神安定に効果がある幸せホルモン）という脳内物質が分泌されるからである』と、身体を動かすことを勧めています。

2023/01/15　収容所から来た遺書

第二次世界大戦終戦（1945年8月15日）直前の8月9日、ロシア（当時ソ連）は突然日ソ不可侵条約を一方的に破って旧満州、樺太に150万人の軍隊で侵入し、日本人婦女子を強姦し、成年男子60万人をシベリアに連行し、囚人として強制労働させました。77年後のロシアのウクライナ侵攻と無差別攻撃をリアルタイムの画像で見て、この国は変わらないなぁという思いを強くしました。さて当時抑留された日本人俘虜は栄養失調・凍死などで7万人以上の方々が亡くなり、生き延びた最後の日本人が帰国したのは1956年。実に11年の長きに渡り、国際法違反である捕虜の奴隷的状態に置かれていました。そんな犠牲者の一人山本幡男（はたお）氏の遺書が、収容所から帰国出来た同氏の仲間が記憶していたその内容を文書にし、未亡人に届けたという感動的な実話を描いたのが「収容所から来た遺書」（辺見じゅん著：文春文庫）です。昨年末「ラーゲリより愛を込めて」というタイトルで原作に近い内容で映画化され、見ていた私も知らず知らず涙がこぼれていました。

山本氏（＝以下山本と記述【左写真】）は東京外国語学校（現東京外国語大学）でロシア語を学び、満鉄調査部に入社し「北東アジアの諸民族」という本を中央公論社から出版する程の語学力と、鋭い観察力と優れた感性の持ち主でした。第二次世界大戦末期の1944年（昭和19年）二等兵として召集され、ロシア語に長けたことからハルビン特務機関に配属されましたが、日本敗戦後、冬は零下40℃になるウラル山中の極寒地スペルドロフの収容所に連行され、黒パン一切れとわずかな粥だけで1日10時間という強制労働に2年半従事させられました。山本は通訳として自動小銃で脅すソ連兵との間で、数百名の日本人俘虜の待遇改善のため働き、事故死した同僚の通夜を行なったため「棺桶」と呼ばれた長方形の箱に何日も閉じ込められたりもしました。1948年（昭和23年）「ダモイ（帰国）」と信じてウラル山中からすし詰めの貨車でハバロフスク近くまで来た捕虜一行のうち、旧日本軍将校達と共に特務機関にいた山本は貨車から途中で降ろされ、ハバロフスクの収容所に再収監されてしまいます。

そこではソ連に洗脳された日本人捕虜達（＝アクチブと呼ばれた）が、「スターリン万歳！天皇制打倒！」と叫び旧軍上司や特務機関にいた仲間を「反動ファシスト！白樺の肥料になれ！」と吊るし上げ、リンチを加えました。そして山本はソ連国内法の形式だけの裁判で、「反動スパイ罪」による重労働25年の刑を言い渡されました。各地の収容所をたらい回しにされましたが、山本はそこの俘虜仲間と俳句を詠み合い（＝地面に釘で書いたり、セメント袋の裏を利用して鉛筆で書いて回覧した）、「僕達は色々な目に遭ったけど、まだ白樺の肥料にはなっていない。望みを捨てたら駄目です。必ず生きて日本に帰るんです。そのために日本語を忘れないようにしましょう」と、万葉集や大乗仏教の話もして、ともすれば挫けそうになる仲間達を励ましました。

1950年（昭和25年）に移されたハバロフスク21収容所では、捕虜団長の瀬島龍三中佐（＝元関東軍参謀、帰還後伊藤忠商事会長となる）に懇願された山本は、「収容所のソ連人と一切話さなくても良いなら」という条件で文化部長を引き受けました。ハバロフスク郊外を流れるアムール川（黒龍江）に因んで「アムール会」という俳句の会を作り、草野球大会のアナウンサー、日本語新聞の発行、ロシア映画上映時の同時通訳などを務めました。山本はソ連の新聞に目を通して論評は一切加えず「米大統領選でアイゼンハウア将軍が55%の投票で選ばれた」などと事実だけを伝え、ソ連映画のプロパガンダ部分通訳は「おら、頭さ壊れちまってるから、難しいこと言われても、ずっぱりわがらね」と軽妙な方言でサラリと逃げ、観客をドっとを沸かせたそうです。

ノルマを果たすまでは作業は続けられた	収容所（ラーゲリ）

1952年(昭和27年＝終戦から7年)、ようやく収容所から「俘虜郵便」が出せるようになり、山本は島根県松江市で夫の帰還を信じて待つモジミ夫人に「私ガ元気ニ暮ラシテイルコトヲオ知ラセシマス」という葉書を送り、受け取った夫人は「お父ちゃんは生きていたよ！」と子供達に絶叫しました。1953年3月にスターリンが死亡し「帰国が早まる」と収容所内の空気が明るくなったのに、山本は喉の痛みを訴え収容所内病棟に入院し、末期の喉頭癌と診断されました。病状は悪化し患部からは膿が出て声が出なくなり筆談となり、誰が見ても再起は絶望的でした。瀬島に促されて山本と一番親しかった元満鉄仲間の佐藤健男が、「山本君、万が一を考えて奥さんやお子さんへ言い残すことがあれば書いてほしいんだ」と頼むと、黙って頷いた山本はたった一晩でノート15頁に4通の遺書（＝本文、妻、子供、母親宛）を書き、「荷物検査で書類は没収されるから、一字一句漏らさず暗記し、日本に戻ったら私の家族に必ず伝えてほしい」と佐藤に依頼しました。佐藤はそれぞれの遺書を一つずつ別々に書き写し、信頼できる複数の仲間に「必ず暗記して、それを日本の山本さんの家族に伝えてくれ」と、に託しました。

山本は1954年（昭和29年）8月25日、9年の悲惨な収容所生活の末病室で息を引き取り、彼を慕う仲間たちの手で、「白樺45」（＝享年45歳でした）の穴に葬られました。1956年（昭和31年）10月鳩山内閣により日ソ国交回復がなされ、最後まで抑留されていた日本人達がナホトカから引揚船「興安丸」に乗り、京都府舞鶴港で母国の土を踏んだのは1956年12月26日のことでした。

翌1957年1月山村昌雄と名乗る男が、長男を東大に通わせるために松江から埼玉県浦和に移転していた山本モジミ宅を訪れ、「ご主人からの遺書を暗記し、再現してお届けにあがりました」と挨拶をした。モジミは最初意味がわからず、万年筆で日本製の便箋用紙に書かれた夫の字体とは全く違う「山本幡男の遺家族のもの達よ、とうとうハバロフスクの病院で遺書を書かねばならなくなった。鉛筆を取るのも涙。どうしてこの書が綴れよう」と書かれた文章を読み、愕然としました。次に届いたのは「子供等へ」の遺書で「四人の子供達よ。お互いに団結し、協力せよ。特に顕一は長男であるし一番才能に恵まれてゐるのだから、三人の弟妹をよく指導してくれよ」と書かれていました。三番目に届いたのは「妻よ」の遺書で、「妻よ、よくやった。実によくやった。私は君の愛情と意志のたくましさ、旺盛なる生活力に感激し、感謝し、信頼し、実によき妻を持ったといういふ喜びに溢れてゐる。さよなら」と記されていました。「お母様！」で始まる遺書には「やさしい、不運な、かわいさうなお母さん、さやうなら。私は何といふ親不孝だったでせう。どれだけお母さんに遭ひたかったことか。しかし感傷はもう禁物。モジミと協力して貴女の孫達を成長させてください。お願いします」と母への愛情が滲んでいました。

山本幡男氏家族	山本幡男氏が佐藤健雄氏に託した願い

佐藤が信頼出来る複数の人物に依頼した4通の遺書は郵送も含めて6通届きました。便箋や原稿用紙に清書されたこれらの山本の遺書は、男たちが収容所（ラーゲリ）の中で常に復唱し頭の中に刻み込み、帰国後に再現したものでした。戦争が終わってから実に12年の月日が経っていました。

2023/01/22 フグ尽くしとメルヘンチックな苺大福（鮨青木）

「銀座鮨青木」で「1月の素材はフグですが、最初のお造りはお正月なので福袋入りでお出しします。今日は7人のお客様ですが、この7つの袋の一つにだけ当たりが入っています」と、お造りの皿を和紙の袋で囲って中が見えないようにしたものが出て来ました。興味津々で目の前に置かれた袋を開くと中味はフグ刺しで、刺身をひっくり返して探しても宝くじの札は見つかりません。すると隣に座っていたSさんが、「あ、鮑が入っている！」と声を上げました。他の6人の皿はフグ刺しだけで鮑は見つかりませんでした。「Sさん、おめでとうございます。今年は運がつきそうですね」と青木さんが声をかけると、Sさんは「いやぁ、僕は卯年で今年は年男なんですよ。こいつは春から縁起が良いわい」とご満悦。洒落たスタートとなりました。

続いてフグの刺身白和えにキャビアをまぶしたものと、フグの尾と皮のエキスでつくったスープが出て、次に「珍味で琵琶湖の鮒れ（なれ）鮨をどうぞ」と勧められました。琵琶湖で採れるニゴロブナを塩漬けにした後、炊いたご飯を重ねて漬けて自然発酵させる、古代から残る保存食としての「鮨」そのままの製法で作られたものです。独特の香りがするもので苦手な方もいるようですが、私は冷蔵・冷凍が出来なかった古代から伝わる知恵だなぁと、以前福井で食べた「へしこ」（=鯖を塩漬けにしてさらにそれを粕漬けにする保存食郷土料理）を思い出しながら、この珍味を味わいました。これには熱燗の日本酒がピッタリでした。

フグ白和えキャビア添え	フグのスープ	鮒れ鮨

「次はケンタッキー・フライです」という青木さんの冗談と共に出されたのは、フグと牡蠣のフライがそれぞれ一つずつでした。珍味から揚げ物へと味がガラリと変わりました。これは冷酒だと思い「白鷹生もと・大吟醸純米」にチェンジ。続いてフグのしゃぶしゃぶをぽん酢で食べ、ここから締めの握り鮨になります。「目の前にある素材の食べたいものを１貫ずつお好きなだけどうぞ」と言われ、食い意地の張った私は「鮪の赤身、中トロ、赤貝、小肌、ヒラメ、穴子、イクラ軍艦巻きと、かっぱ巻き」と８貫も頼んでしまいました。ここから 日本酒は少し辛目の「月の桂」に変えました。

フグと牡蠣の揚げ物	フグのしゃぶしゃぶ

「じゃ、デザートは卯年に因んだ苺大福です」と、まず鮨屋では出てこないようなメルヘンチック【注１】な苺大福が出されて来ました。女性客は「キティちゃんみたい」と大喜びです。最初の鮑が隠された「新春福袋お造り」、「ケンタッキー・フライもどき」、そして締めの「キティちゃん大福」と、青木さんのウイット（機知）が、料理を食べる私達を大いに楽しませてくれました。今日もご馳走様でした。

【注１】メルヘンチックとは、ドイツ語のmerchen（＝妖精）＋英語のtic（＝接尾語で「〜のような」）の和製造語で、正しい英語でいえば fairy-tale-likeということになります。

2023/01/27　天才（石原慎太郎著：幻冬舎）

著者石原慎太郎氏は後書きで、田中角栄との政治的対立を「私はまぎれもなく田中角栄の金権政治を批判し、真っ向から弓を引いた人間であった」と認めた上で、「アメリカという外国の策略で、田中角栄という未曽有の天才を否定し葬り去ることは忍びない。敗戦・外国による占領下統治というかつて経験したことのない時代に、日本が経済高度成長でアメリカに迫る豊かな国になった要因の多くは、田中角栄という天才政治家の手腕によることは間違いない」と述べています。文頭のページに戻り読み始めると、著者が田中角栄に成り切った一人称のストーリーで展開されます。

俺が小学校六年生の時、借金で首が回らなくなった父親に頼まれ親戚に60円の金を借りに行った時、「お前の親父は金の算段を考えずに駄目な男だなぁ」と言われ、金の貸し借りというものが人間の値打ちまで決めかねないということを、その時思い知らされた。また徴兵されてノモンハンで酒保勤務になった時、杜撰な食糧管理を知っている兵隊達が、夜になるとこっそり酒や食べ物を盗みに来るので、誰何して銃剣を突き付けてはみるがニヤニヤ笑って見逃してやったら、軍隊ではちょっとした顔になった。つまり人の世の中での賄賂の原理を、そこで学んだのだった。

俺は若い頃土方の仕事をしていたが、仲間に面白い年寄りがいて「土方の仕事ほど人間社会にとって大切なものはない。大西洋と太平洋を繋いだパナマ運河も、地中海とインド洋に繋いだスエズ運河もみんな土方が手足を使って造ったものだ」と言われたのがひどく印象に残っていた。そこで29歳で衆議院選挙に出馬した時、俺は「三国峠をダイナマイトで吹っ飛ばせば越後に雪は降らない。その土を日本海に運べば佐渡と陸続きになる。これからは東京から新潟へ出稼ぎに来るようになる」という殺し文句で演説した。国会議員になってから都市政策大綱を作り、この国全体を地ならしして地方の格差をなくす「日本列島改造論」を発表したが、1985（昭和60）年関越自動車道が全線開通となり、俺の故郷の裏日本新潟はとうとう表日本の東京と一本の道路で繋がった。 俺は議員同士の議論の時、官僚相手の議論の時、臆面もなく俺自身の最底辺での体験を披露し自説を主張した。奴等は「あんたら土方をやって、汗水たらしてトロッコを押して道路を作ったことありますか？」という俺の言い分には、彼等は到底太刀打ち出来なかった。そこで俺が学んだのは所詮この世は互いの利益の軋轢で、それを解決するのは結局金次第ということだった。

1972（昭和47）年、世に「角福戦争」と呼ばれた自民党総裁選挙で、時の総理大臣佐藤栄作が地位を禅譲したがっていた官僚出身の福田赳夫を破り、俺は54歳の若さで内閣総理大臣になった。政治の世界には通り一遍では済まぬことが多々ある。要は商売の取引の兼ね合いと同じで、駆け引きには裏があり、裏の裏が必ずしも表でないこともあるのだ。総裁選を間近に控えて陰に陽に多数派工作が行われ、金銭の授受がなかったといえば嘘になる。二派から金をもらうニッカ、三派から金をもらうサントリー、全陣営からせしめるオールドパーなどという隠語が囁かれたものだ。

総理大臣になった俺は念願だった日本列島改造を実行しながら、アメリカに先を越された隣の大国中国との関係の健全化を目指した。政治家の責任とは役人と違って大掴みに国の将来を考えた政策を実行することだ。俺は共産主義には共感も賛同もしないが、8億を超える隣国の存在は無視できない。日中国交正常化されれば台湾との外交関係がおかしくなり、上手く対処しないと日本でゴタゴタが起きる。そこで俺はまず日中共同声明を出してしまい、その事実を踏まえて国会で議決手続きをするという手段を取った。俺と大平正芳外務大臣など8名が北京に飛び周恩来首相と直接会談し、俺は「細かい表現には拘らず、まず日中共同声明による友好のスタートを切ることだ」と主張した。周は「体制の異なる国の間でも協調は可能なはずだから、田中総理の言う通り日中国交正常化は一気呵成に行いたい」と大筋で一致した。周恩来との三回目の会談を終え迎賓館でくつろいでいると、毛沢東主席が会いたいと言っているという電話がかかってきた。初めて会った毛沢東はにこやかに「周首相との喧嘩は済みましたか？喧嘩をしてこそ仲良くなれるものですからね」と言った。

アメリカは俺が独断で中国と近づいたことに強い不満を抱いたようだ。白人にとって経済成長目覚ましい日本と、未開の大国中国が関わりを持つことを懸念し、またその後の1973年（昭和48）年のオイルショック時、俺がメジャーに頼らず日本独自で石油、ウランなどエネルギー確保ルートを開発しようとしたことに、キッシンジャーが強く反発したことも後になって知った。実はこのアメリカの恨みが、ロッキード事件によって俺を失脚させることに繋がるのだ。そして事はまさに青天の霹靂のように起こった。俺が総理大臣を辞めた翌々年の1976（昭和51）年の外電で、「ロッキード社が自社飛行機トライスターを日本売込むため右翼の大物児玉誉士夫、商社の丸紅を通じて1千万ドル（邦貨約30億円）を渡し、日本の政治家Tに働きかけをするよう依頼した」と報じられたのである。正に寝耳に水で、俺の派閥金庫番だった佐藤昭が「まさかTとはあなたのことじゃないでしょうね？」と言うので、「馬鹿を言え、俺がそんなものもらうと思うのか。第一トライスターとは何のことだ？」と聞いた位だった。

実は1974（昭和49）年苦戦が予想された参議院選挙時、総理大臣だった俺があちこちからかき集めた300億円の金の一部として、俺の筆頭秘書の榎本敏夫が旧知の丸紅役員の伊藤宏から受け取った5億円が、他の多額な金に紛れて上記佐藤昭がテキパキと裁き立候補予定者に配ったのだが、まさかこんなはした金がロッキード社からの賄賂で、それが俺の命取りになるとは夢にも思ってもいなかった。榎本が受け取ったという5億円の由来は、丸紅の献金か児玉からの献金かわからぬが、検察側調書だともっともらしく四回に分けて段ボール箱に分け、英国大使館の裏だの路上でさりげなく渡されたとなっているが、榎本の話によれば全て伊藤の家だったそうな。どうもこの5億円は俺を貶めるための罠で、日本の司法当局はそのような謀略には惑わされず、事実に基づく正しい判断を下すはずだと思っていたが、その期待は裏切られた。1976(昭和51)年7月27日、東京地検が「5億円の受託収賄罪及び外為法違反」で突然俺を逮捕し、小菅の拘置所に連行したのだ。

裁判はダラダラと長引き俺は蛇の生殺し状態で、6年半後の1983(昭和58)年に、東京地裁は65歳になった元総理大臣に「懲役4年追徴金5億円」の実刑判決を下した。俺はその場で「そんな馬鹿な、許せん！」と口走り即日控訴した。結束を誇った田中軍団もこれでタガがゆるみだし、番頭格の金丸信とつるんだ竹下登が、1985（昭和60）年田中派の議員一部と示し合わせ創政会（＝後に田中派議員大半が移った経世会）を立ち上げたので、俺は目白の自宅を訪ねた竹下を門前払いにしたが、竹下は数の力で1987(昭和62)年の自民党総裁選で勝利し、内閣総理大臣となってしまった。そして67歳の時俺は脳梗塞で倒れてしまった。俺は左脳をやられ、頭はまだ考えられるのだが言葉が出なくなってしまった。72歳になった1990(平成2)年俺は政界を引退し派閥も解散した。「あぁ権力というものは所詮水みたいなもので、確かに掬ったと思っても、指と指の間からあっけなくこぼれて消えていくものだな」と俺も悟った。

75歳の1993（平成5）年の総選挙では、俺の選挙区からは娘の田中眞紀子が出馬し当選したが、自民党は破れて下野し日本新党の細川護熙が非自民・非共産党の連立政権が成立した。そして俺は電話にも答えることが出来ず「アー」とか「ウー」とか呻くだけになり、やがて俺の体は自分でもわかるほど変調を来してきた。家中の者が集まり「どうしたの？どうかしたの？」と叫んでいたが、俺はただ「眠いな」と答えたつもりだったが、そのままもっと深く長い眠りに落ち込んで行ったのだった。 アメリカに「デンジャラス・ジャップ」と嫌われた俺は、ロッキード事件という俺に全く関係ない罠で犯罪人とされ、情けないことに肝心の日本の司法当局すらアメリカに屈してしまったので、無念ながらこの国は未だにアメリカの属国のままであるということを、俺自身が身を持って体験したのであった。

というのが時代を追った「慎太郎流・角栄節」ですが、私は田中角栄が逮捕された日のことは良く覚えています。ちょうどその時夏休みで私は四国の島の海岸で海水浴をしており、砂浜の上のゴザで寝っ転がっていた時に、耳元の携帯ラジオから聞こえて来たのがこのショッキングなニュースだったからです。当時の世論は「金権政治田中批判」一色で、殆ど誰もが「田中角栄は全く覚えがないと言っているのは嘘で、あの男のことだ、絶対賄賂をもらっていたに決まっている」と思っていました。ですから若手愛国政治家と共に『青嵐会』を結成し、反金権政治を打ち上げて田中を糾弾していた石原慎太郎（＝当時は自民党衆議院議員として8回連続当選）が、晩年になって出版したこの本で「田中は天才政治家でアメリカの恨みを受けた失脚した」と結論づけているのは意外な驚きでした。

この本を読んで＜アメリカ(キッシンジャー)・陰謀＞をネット検索したところ、どうもそれもあったのでは？と思うような情報がいくつも見つかりました。中でも田中角栄が目白の私邸を訪れたキッシンジャーと会って本当のことを知り、ショックから脳梗塞で倒れたという話には驚かされました。【注１】また『ロッキード疑獄 角栄ヲ葬リ巨悪ヲ逃ス』（春名幹男著：角川書店）の紹介文では「米国立公文書館、CIA、日本側裁判資料、日米関係者への直接取材により、戦後最大の疑獄・ロッキード事件の真相がついに解明！」【注2】とあったので、この本もぜひ読んでみようと思っています。

【注１】策士キッシンジャーの権謀術数の数々（Excite News）
【注２】戦後最大の疑獄・ロッキード事件の真相がついに解明

2023/02/03 のだや

「恐れ入谷（いりや）の鬼子母神（きしもじん）、びっくり下谷の広徳寺」は江戸っ子の洒落。「恐れ入る」「びっくりした」という語呂合わせで、台東区入谷の真源寺に祀られている鬼子母神を譬えたものです。この寺は「下谷七福神」のひとつで福禄寿を祀っています。この鬼子母神境内と門前で7月に開かれる『朝顔市』は、夏の風物詩となっています。

真源寺	鬼子母神	朝顔市

鬼子母神の真ん前にあるのが鰻の「のだや」です。「のだや」は野田屋東庖会として明治元年創業以来、150年に渡り鰻・川魚専門調理士の技術者集団として、うなぎ文化の継承・啓蒙発展のため関東近郊の日本料理店の鰻・川魚調理店へ、野田屋調理士紹介所として調理士を紹介斡旋してきました。【注１】そのフラッグショップともいえるのが、この入谷鬼子母神門前の「のだや｣です。

のだやビル	暖簾	鰻重

まずはビルの大きな鰻看板に驚かされます。店の中はゆったりとしていますが、前もって予約を取らなければ入れない程の人気店です。鰻重が出来上がるまで40分待つには、酒と美味いつまみが揃っています。私は骨煎餅、お新香に、「鰻珍味三種」を頼みました。【下写真】これは鰻の西京漬け、八幡巻き、白焼と、違った味で楽しむものです。鰻重も「共水」、「和匠」、「兼光」と別れ（産地の違いでしょうか？）、それぞれ6000円〜8000円となっていました。

【注１】のだや　東京都台東区下谷2−3−1　TEL: 050-5869-5137

2023/02/10　英語イディオム：相手を追いつめる

英語では相手をとことん追いつめてやっつけること、或いはそれを平気の平左でやり過ごすことを、色々な単語を使ったイディオムで表現するので、いくつか紹介しましょう。身体部分や日常生活に使う名詞を使って成程と思うものもありますが、「キュウリの様に冷静で」とか、「挽き肉にするように徹底的に切り刻んで」とか、文化の違いを感じさせる言い方もあります。SBはSomebodyの略で（人）を指します。

1.Beat SB to a pulp
Prime Minister Edward Heath beat the Labor Party leader to a pulp when they had a discussion.
１．けちょんけちょんにやっつける
エドワード・ヒース首相は討論相手の労働党党首を、けちょんけちょんにやっつけた。

2. Make mincemeat of SB
Margaret Thatcher always made mincemeat of the Parliament Members when they opposed her policies.
２．相手を挽肉にするほどとことん追い詰める
マーガレット・サッチャーは彼女の政策に反対する議員達をひき肉にするほどとことん追及した。【右写真：Margaret Thatcher元英首相】

3. Arm-twisting
They should be arm-twisting in the name of scientific research.
３． 強い圧力をかける
彼らは科学的調査のためという名目で、強い圧力をかけるべきだ。

4. At the end of one’s rope
My son is causing endless problems and I’m close to the end of my rope.
４．進退窮まって
私の息子はトラブルが絶えず、私の進退も窮まっている。

5. Come under fire
The rail company came under fire after raising train fares.
５． 非難を浴びる
その鉄道会社は運賃値上げで、非難ごうごうとなっている。

6. Grin through gritted teeth
Blair grinned through gritted teeth when Cameron needled him, “You’re incompetent.”
６．歯を食いしばって耐える
ブレアーはキャメロンが「あなたは無能だ」と鋭く突っ込んだ時、歯を食いしばって耐えた。【右写真：Tony Blair元英首相】

7. As cool as a cucumber
He was as cool as a cucumber when he was reprimanded.
７．平気の平左で
彼は叱責されても平気の平左で、全く慌てふためかなかった。

8. At odd with
Tory Prime Minister John Major was at odd with Tony Blair, the Labor party leader.
８．不仲である
保守党のジョン・メージャー首相と、労働党党首のトニー・ブレアーは反りが合わなかった。【右下写真：John Major元英首相】

9. Get in SB’ hair
She is always getting in my hair.
9．イライラさせる
彼女はいつも僕をイライラさせる。

10. Bite one's head off
I was only one minute late, but my boss hit my head off.
１０．噛みつかんばかりに怒る
僕はたった1分遅れただけなのに、上司は噛みつかんばかりに怒った。

2023/02/16 日中友好侵略史（１）

通常「侵略」とはロシアによるウクライナ侵略のように、軍事力を用いて他国の主権・領土を奪うことを指しますが、戦車やミサイルは使わず「友好」という仮面を被って相手国に深く浸透工作し、気が付いたときはその国の思い通りの様になっている静かな侵略があります。現在「友好」という美辞麗句に騙され、思う存分翻弄・利用され、気が付いてみたら自国の土地もいつの間にか彼等名義になってしまっている、というのが日中関係なのです。門田隆将氏は綿密な取材と文献検証により、70年以上に渡る中国共産党の対日工作を「日中友好侵略史」（産経新聞出版）で暴いています。その内容は驚嘆と戦慄の連続だったので、2回に分けて紹介しようと思います。

プロローグ
日中国交正常化(1972)時「一つの中国」を譲らない中国共産党は、国交正常化条件に「日華断交」、即ち日本と台湾との関係を断つことを要求した。敗戦後蒋介石の「以徳報怨（＝徳を以って怨みに報いる）で百万人を越えていた台湾の在留邦人は抑留されもせず祖国日本の地を踏むことが出来た。それ以降政治、経済、文化のあらゆる面で親交を深めていた台湾との関係を断ち切れというのは、日本にとって断腸の思いであった。政府特使として台北に向かった椎名悦三郎は「弔・椎名悦三郎」の幟で迎えられ、乗った車のフロントガラスは群衆に粉々に割られた。【右上写真】日台関係を無理やり断ち切られ、中国共産党につけ込まれ、やがて日本が彼らの掌で面白いように転がされていく不吉な前兆だった。

始まった対日工作
国家成立(1949)すると、中国共産党指導者周恩来は廖承志（りょうしょうし）【右写真】を中日友好協会会長にして対日工作を開始した。べらんめえの江戸言葉を喋れる廖承志は、日本を中国になびかせるため政治家松村謙三にターゲットを絞り、松村が蘭の愛好家であることに目をつけ、「日本では見られない珍しい蘭をご覧になりませんか」と、1959年に彼を中国に招待した。一カ月半も各地で大接待し、すっかり松村を手懐けると、周恩来は日中貿易の重要性を松村に説き、正式な国交がないままLT貿易を開始させる。LTとは廖承志 （L）と、松村の同僚議員で日本政府融資保証を促した高崎達之助(T)の頭文字で、日本からの輸出は鋼材、農業機械、化学肥料など中国が喉から手が出る程欲しい工業製品、中国から日本への輸出は石炭、錫、大豆、トウモロコシなどであった。さらに中国は創価学会の池田大作に接触し、120以上の称号を池田に贈って懐柔し、創価学会とその実行政党である公明党を手懐けた。池田大作は1968年、創価学会員一万数千人の前で「台湾ではなく、地球全体の四分の一の人口を持つ大陸本土の中国の人々を無視してはいけない」と、中国寄りの姿勢をハッキリと打ち出した。

丸裸だった日本
1971年アメリカの大統領補佐官キッシンジャーが極秘に北京を訪れ、ニクソン米大統領の訪中が決まり（＝いわゆるニクソン・ショック）、国連総会でそれまで常任理事国だった台湾を追い出し、その位置に中国が座ると、機は持したとばかり周恩来は日中国交回復へ舵を切る。札束が舞い飛ぶ自民党総裁選を勝ち抜き総理大臣となった田中角栄と、その盟友大平正芳外相にアプローチすると飛びついてきた。政治的功名心に焦る二人は1972年9月北京に招待されキチンとした準備もないまま日中首脳会談に臨む。一方中国側は日本側出席者、随員、同行報道陣の一人一人まで名前・履歴をキチンと調べて、手ぐすねを引いて待っていた。

第一回首脳会談で田中は「日中国交正常化の機は熟しました」と語り、大平は「日華平和条約は日中国交正常化の瞬間において任務を終了したということで、ご理解いただきたい」と発言し、周恩来をニンマリさせた。さらに歓迎夕食会で「過去数十年に渡り中国国民に多大なご迷惑をおかけしました（添了麻煩）」と言った田中発言が、中国に「しめた」と利用されるのである。外務省が事前翻訳していた「添了麻煩」は「小さな迷惑(例：女性のスカートに水をかけてしまった場合に『済みません』というようなニュアンスの『迷惑』）だったからである。外務省の逐語訳ミスが国家間の大問題となってしまうのである。

翌日の第二回首脳会談で周恩来は「日本軍国主義は中国で千数百万人の損失を与えながら、“ご迷惑”とは何事か! 言葉に誠意がない。これは受け入れられない」と怒気を含めて責めた。日本側は「いや、あれは日本語ではちゃんとした謝罪の意味です」と言っても聞き入れず、「日華条約を残すということは、台湾に逃げ込んだ蒋介石が正統で、我々が非合法いうことになる。蒋が賠償放棄したというが、被害を被ったのは大陸の中国人民だ。それなのに中国は日本に賠償を請求しないというのは日中国交回復のためなのだ。その真意を理解せず台湾と断交しないなら、交渉は決裂だ！」と一気呵成に迫り、日本側はたじたじとなった。

その結果1972年9月29日の日中共同声明では「過去において、日本国が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えた責任を痛感し、深く反省する」となり、懸案の台湾事項については共同声明の中には盛り込まず、別途外相談話で日台条約が失効したことを表明することになった。大平は記者会見で「なお共同声明の中には触れられておりませんが、日中関係施正常化の結果として、日華平和条約は存続の意義を失い終了したと認められるというのが、日本政府の見解でございます」と述べた。中国の”全面勝利“であった。（以下「日中友好侵略史 (2)」に続く）

2023/02/20　日中友好侵略史（2）

日中関係は「友好」から「主従」へ
国交正常化(1972)から一か月後にパンダのランラン・カンカンが上野動物園に贈られ、パンダブームが日中友好絶対主義に拍車をかけた。1978年中国最高権力者�ｹ小平(74)が来日しトップ企業を訪れ、松下電器工場で松下幸之助に「松下さんの援助が欲しい」と話しかけると【右写真】、松下は「なんぼでもお手伝いします」と答えたそうである。【注１】未開の大地中国へ日本の商社やゼネコンは目をギラギラさせて入って行った。何故ならその原資は取りっぱぐれのない日本政府のODA(政府開発援助)だからである。その総額は42年間で総額3.7兆円に達した【注２】。何のことはない、中国は日中共同宣言時に「戦時賠償を放棄した」と恩着せがましく宣伝しておいて、ODAでしっかり日本に支払わせているのである。

1989年4月胡耀邦元国家主席(73)の死を悼む学生達10万人が民主化を要求して、北京の天安門広場へ集まった。�ｹ小平はこのまま民主運動を放置しておけば共産党政権は危ないと判断し、（＝実際1989年11月ベルリンの壁が崩れ、その2年後にはソ連邦が崩壊する）6月4日に軍隊を投入し、戦車の水平撃ちで逃げ惑う学生市民同胞を人民解放軍が自動小銃で次々と射殺した。事件当時�ｹ小平は「20万人ぐらいの血の犠牲はかまわない。中国では100万人といえども小さな数にすぎない」と言ったと言われる。正確な犠牲者の数字は未だに不明であり（＝最少でも10万人？）、また中国国内ではこの六四事件（天安門事件）は、未だにタブーとなっており、ネット検索も出来ない。

この「人権無視の天安門事件」に国際社会は一斉に中国への経済政策に向かったが、G7(先進国首脳会議国)のうち唯一反対した国が日本である。日中国交正常化以降17年、中国の徹底した教科書批判・靖国参拝批判【右写真：靖国神社に参拝する安倍首相】で中国に攻められ、巨額のODAを中国のために差し出し、中国に文句を言ったり、中国に不利益なことを言える雰囲気がなくなってきていた。中国と日本は「友好関係」から「主従関係」に変貌していたのである。

天安門事件から覇権大国に変貌した中国
1998年11月26日皇居で行われた宮中晩餐会に中山服（ちゅうざんふく＝いわゆる人民服）で現れた江沢民中国国家主席【右写真】は、平成天皇の歓迎スピーチの後、常識外の傲慢無礼なスピーチをしてその場を凍らせ、TV中継を見ていた日本国民は呆れ、怒り騒然となった。政治や外交交渉の場でない宮中晩餐会で、日本国民を代表して賓客を歓迎した天皇の挨拶の直後に、「日本軍国主義は誤った道を歩み、中国人民に大きな災難をもたらしました。我々はこの痛ましい歴史の教訓を永遠に酌み取らねばなりません」と述べたのである。「あんたの親父には酷い目に遭ったよ。過去にあんた達はこんな過ちをしたんだ。そのことを忘れず、今後はこういうことのないことにしろよ」と言っているのである。常識ある大人がどこかの家に食事に招かれた時に、いきなりこんなことを言うだろうか。

この非礼なスピーチの背景には天安門事件(1989)以降、中国が徹底した愛国教育を行なうようになったことがある。�ｹ小平とその後継者である江沢民は「政府が思想政治教育をしなければ、また六四事件のような騒動が持ち起こる」として、史実に基づかないことでも「日本の戦争犯罪」とされ、どのチャンネルをひねっても反日ドラマばかりという時代になった。だからこの皇居晩餐会スピーチは、国内で行っている反日教育に合わせて、国内外に「日本＝悪者、中国＝被害者」を訴えるパフォーマンスであったのだ。

ハニートラップの凄まじさ

中国は企業機密、技術、軍事外交・政治情報を盗むためには「ハニートラップ」（＝中国人女性と深い関係に成らせてそれをネタにゆすって言うことを聞かせる）を臆面もなく仕掛ける。中でも日本国首相橋本龍太郎【最左写真】に仕掛けたトラップは極め付きである。橋本は訪中時に通訳としてついた中国諜報員林玉蘭と深い男女関係になり、その弱みから天安門事件以降経済制裁で苦しむ中国を助けるために、日本の首相であるにも関わらず中国のために円借款、ODA再開などに走った。1997年10月国会で新進党の西村慎吾から「タフネゴシェーと言われたあなたが急に中国に対して萎縮したようなのは何故か？さる中国人女性と深い関係になったからとマスコミでは報道されているが、その女性は諜報部員と知っていて付き合っていたのか？何を依頼されたのか？」と追及された。橋本は「彼女が全ての会議で通訳を勤めてくれたので、お礼の意味でご飯を御馳走した。僕の知っている人に紹介状を書いたこともあるが、諜報部員だったかどうかは知らない。調べようがない」と苦しい言い逃れをしたが、個人的接触の事実は否定しなかった。

実は林玉蘭は中国外交官の娘で5歳の時から諜報員になるべく特殊教育を受け、橋本が大蔵大臣の頃(1989年＝天安門事件の年)から意図的に接触し逢瀬を重ねたことは、日本の公安当局も掴んでおり、どの花屋からどんな花を贈り、何の宝石を彼女に買ってやったかまで調べ上げていた。彼女の親は娘の諜報功績が評価され、大使として抜擢を受け赴任したことまで掌握していた。橋本はこの問題を追及したマスコミ相手に訴訟を起こすこともなく、国会でも沈黙を保ち2006年に没した。

破壊者習近平登場
2012年8月中国の活動家が尖閣島に上陸し、海上保安庁が彼等を検挙し強制送還させると、待っていたかのように中国で反日デモが起こり、中国全土で日本企業が襲撃・破壊される事態になった。言うまでもなく共産主義国家では政府の許可のないデモはあり得ないので、中国政府の官製デモである。中国は国際社会に向かって「責任は全て釣魚島（尖閣島）を日本領土にした日本にある」と一方的に宣伝し続けた。 日本企業襲撃直後の2012年12月に国家主席に就任したのが習近平であり、「偉大なる中華民族の復興」なるスローガンで、南シナ海地図に勝手に９本の線を引いて「その内側は中国の海」であると主張し、フィリピンが国際法違反であるとハーグの裁判所に訴えても馬耳東風で岩礁を埋め立て、「漁民のための補給場所だ」と白々しい嘘をつき軍事基地を築いた。

また世界のハイテク技術を盗むために「千人計画」で日本やその他の国々のAI、半導体、宇宙分野、ロボット、軍事技術研究者を高給で中国に呼び寄せたので、トランプアメリカ大統領は「中国は不公正な商取引と知的所有権の無断利用をしている」と、中国ファーウエイ孟晩舟副会長【左写真】をカナダで逮捕するに至った。(2018)また中国は外国のオフィス機器メーカーに対し製造全工程を中国内で行うように法を定めた。製造工程でインクジェットの微細なインクを噴射する技術が盗まれ、ウイルス噴射機に利用される危険性が指摘されている。中国は倫理観がないので「出来た者勝ち」社会で、「人として許されない」ことでも平気でする恐ろしい国なのである。まさに中国は恥も外聞もなく、なりふり構わず、反対の声に一切耳を貸さない国家になってきた。

2019年中国武漢で始まった新型コロナウイルス世界蔓延に対して、中国は「中国が世界に謝罪すべきだという声があるが、馬鹿げている。中国は新型肺炎に対して多大な犠牲を払い感染ルートを断ち切ったのであるから、世界は中国に感謝すべきだ。また多くの研究成果が新型肺炎の起源が中国ではない他の国だったと示している。そもそも中国は謝罪する理由などない」と国営新華社通信で開き直った発表をした(2020年3月)。加害者なのに被害者を装って他国に罪をなすりつけたことに、全世界は絶句した。【注３】アメリカでコロナ感染死亡者が第二次世界大戦の戦死者数を超えると、トランプ大統領はツイッターで「パンデミックは世界規模の大量殺人だ。これをもたらしたのは中国に他ならない」と、強烈に非難した。

世界に衝撃：ウイグル人女性が集団の中国人に強姦された上に性的虐待、拷問を受けていた。

“友好”に踊った五十年

2021年(令和3)は日本がここまで中国共産党の影響下にあるかを証明した年だった。新疆ウイグル自治区での強制不妊手術や、100万人を超すイスラム教徒を収容所に拘束するなどのウイグル住民虐殺（ジェノサイド）が明らかになり、西欧社会は非難決議と対中制裁に移ったが、日本では非難決議すら出来なかった。自民党の良識ある議員が対中非難決議案を二階堂幹事長に持っていくと、「公明党との問題があるから、それは出来ない」と断られる始末である。

共産党が支配する社会では取材するには当局の許可が絶対に必要だ。従って日本のメディアは取材するためには中国当局に「愛（う）い奴じゃ」と思われなければならないので、中国批判はタブーになる。だから数々の中国ドキュメンタリーを製作・放映させてもらったNHKは、ウイグル自治区のジェノサイド報道はしない。BBCのサドワーズ北京特派員は敢然として告発番組を放映し、自らの身の危険を感じ台湾に移動した。報じなければならないことは報じるBBCと、中国共産党に便宜を図ってもらうために報道を自主規制するNHKとどちらが正しいのだろうか。

2022年のロシアのウクライナ侵攻で戦後の国際秩序はあっけなく崩壊したが、台湾進攻を狙う中国は力による現状変更が出来ることを喜び、中国大阪総領事薛剣（せつ けん）はぬけぬけとこんなツイートをしている。「ウクライナ問題から日本が明記すべき教訓：弱い人は強い人に喧嘩を売るような愚かなことをしてはいけない。仮にどこか他の強い人が後ろに立って応援すると言ってもだ」これほど上から目線で日本を馬鹿にした話はない。日中国交正常化五十年の結果に今更ながら慄然とする。王毅外相【左写真】は「三つの忠告」と称してこれまた上から目線で「両国関係の方向について、初心を忘れないこと。台湾問題で両国関係に大きな衝撃を与えないこと、時代の潮流に沿って行動すること。以上を日本に求める」と語り、「時代の潮流とは？」との記者質問には、「世界の多極化・民主化が一国主義や覇権主義にとって代わられるのは時代の必然である」と傲慢に言い放った。

また次第に明らかになって来たのは、中国による日本の土地、とくに水源地付近の土地の買収である。多くの国では特定の国に土地を買収されることを防ぐためにさまざまな予防策を取っているのに、日本では外資の日本国土購入に制限が殆どない状態である。 国交正常化50年の2022年、日本が中国共産党の思惑に踊らされ資金・技術を提供させられ、さらに知らない間に国土を買い取られ、政治そのものにまで口を出されて指示され唯々諾々としているのが、我が祖国日本の情けない現状である。

エピローグ：台湾
「日中国交正常化」とは、「念入りな対日工作で日本にカネ・技術を出させて中国を豊かにさせ、力関係が逆転するや日本を属国へ追いやり、同時に日本・台湾関係を断絶させたこと」である。現在世界中が中国の横暴に頭を抱えているが、台湾の人々が最初に警鐘を鳴らしたことが正しかったことが証明されつつある。日台関係は政府レベルでは断交したが民間レベルでは続き、1999年9月台湾が死者2400人を出す大震災に襲われた時、真っ先に駆けつけたのは日本の消防隊であり、2011年3月に日本が16,000人の死者を出した東日本大震災に、258億円も義援金を送ってくれたのは人口2,300万人の台湾である。単純平均で赤ん坊から老人まで国民一人あたり1100円である。人口1億2千万人の日本国民が一人平均1100円ずつ拠出したら1,320億円(!)となる計算だ。それなのに東日本大震災当時の菅直人・民主党政権は中国を含む世界の７新聞に義援金御礼広告を出したのに、中国に遠慮してこれだけ送ってれた台湾にはお礼の広告を出さなかった。ツイッターの呼びかけで「ありがとう台湾。悠的愛心、非常感謝」というお礼の広告を出したのは、民間の有志だった。

生まれた時からの反日教育で日本を憎むようになった中国と、強い友情で結ばれ続けている台湾。「台湾有事は日本有事」と言い続けてきた安倍晋三首相が不可解な「銃」による暗殺事件で亡くなった後、日本はこのまま上から目線で指図する中国にずるずる引きずられて、ウイグルへの道を歩むのだろうか。 【注４】

【注１】読売新聞1978年10月29日
【注２】Nippon Com
1979年から始まった中国への政府開発援助（ODA）は2022年3月で終了した。42年の長きにわたって続けられたODAは日本が低金利で長期に資金を貸す「円借款」が約3兆3165億円、無償でお金を供与する「無償資金協力」は約1576億円。このほか日本語教師派遣などの「技術協力」約1858億円を合わせて拠出した総額は、約3兆6600億円にのぼる。
【注３】2019/12/08には武漢市の衛生当局に海鮮市場でのコロナ感染が報告され、2019/12/30に武漢の李文亮医師がウイルス感染拡大をチャットで警告したが、2020/01/03武漢当局から訓戒処分を受ける。 李医師はウイルス感染のため2020/02/07死亡。【上写真左は亡くなった李文亮医師、右は訓戒処分書】

【注４】（管理人追記）右図は中国外務省から流失したとされる2050年の『極東地図』です。西日本は中国領土東海省と命名され、東日本は日本自治区にされています。これってモンゴルを外モンゴル（モンゴル国）と内モンゴル（中国領モンゴル自治区）に分割した時と全く同じやり方じゃないですか。台湾、沖縄、尖閣諸島、そして南北朝鮮まで中国領土で赤く塗られています。そこまで予定しているんでしょうか？ 日中国交回復50年、ここまで中国共産党にはめられ、ここまで 日本の国土を奪われ、ここまで政治・経済を中国に牛耳られていたとは ・・・絶句です。もはや「気球が飛んで来て警告しても応答がないので、 撃ち落としたら憲法9条に触れるか、触れないか？」などと、悠長な ことを言っている事態ではないはずです。

ただし日本語で書かれていること、「流失したとされる」という断り書きも不自然で、地図だけがインターネット上で一人歩きし、出典文献が確かめられないので、ひょっとしてガセネタ？という恐れがあるので断定しないようにします。中国語で書かれた領土拡大図は「國恥地圖」という地図が『中国國恥地図の謎を解く』（新潮新書）に載っていましたが、これには台湾、朝鮮は含まれるものの日本は辛うじて中国領土扱いされていません。今後学者等専門家にこの”流失された”という、極東地図の真偽を調べてもらえればと思いました。【右上写真】

日本中の米軍基地が中国のミサイル一斉攻撃を受け、日本に在住している100万人弱の中国人に北京から動員令が出て、各地の水源地を「ここは中国人所有地だから」と彼等に押さえられて水を断たれたら、戦う以前に手を挙げなければ命が持ちません。そうなった時、憲法９条崇拝者は「両手を挙げて降参すれば、話し合いで平和的に解決出来る」と本気で思っているのでしょうか？

このままでは チベット、モンゴル、新彊ウイグル、香港に続いて台湾と共に日本も間違いなく中国の属国になります。そうなれば前述の諸国同様 日本女性は強姦され、男性は 強制労働、言葉は中国語強要と、覇権主義者中国の虐殺（ジェノサイド）犠牲になるのでしょうか。

2023/02/26　へぎそば

新宿区高田馬場にある「へぎそば昆」【注１】は、蕎麦のつなぎに布海苔(ふのり)という海藻を使った「へぎそば」を売り物にしています。「へぎそば」は江戸時代から、新潟県小千谷名産として知られていましたが、「へぎそば」の「へぎ」とは「剥ぐ＝はぐ＝へぐ」のなまりで、木を剥いだ板を折敷にした蕎麦を盛る杉の器のことだそうです。店には新潟の銘酒がズラリと揃い、酒のつまみも、へしこ（鯖の粕漬け：福井県・新潟県の郷土料理）、栃尾揚げ（新潟県栃尾市名物の油揚げ）、のっぺ（新潟の郷土料理で、汁ではなく煮物）と、新潟の郷土愛でぐいぐい迫ってきます。

新潟の日本酒勢揃い	水ダコ酢の物（左）と栃尾揚げ
へぎそば	へしこ

20種類以上並んだ新潟産の酒のメニューから、私は以前飲んで美味しいと思った「景虎」と「〆張鶴」をそれぞれ一合ずつ注文し、新潟愛を感じつつ(笑)、つまみを口に運びました。締めのへぎそばは緑色で、普段食べている蕎麦（蕎麦粉十割、或いは二八＝蕎麦粉：小麦粉＝８：２）とは明らかに異質で、食感は蕎麦ですが海の香りを感じ、固い海藻を食べているような気がしました。

【注１】へぎそば昆ホームページ

2023/03/06「中国の言論弾圧実態」(2)私が習近平から逃げ出した理由：葬霞氏(中国共産党中央学校元教授)

葬霞（アイ・シャー）氏【右下写真】は、中国共産党の幹部エリートを育てる中央学校教授でしたが、習近平政権下で言論活動を制限されていました。2020年にアメリカ在住の親族を訪れている時に中国共産党籍を剥奪されると、暗殺の危険に怯えながら亡命先のアメリカから、習近平政権の実態を暴露し、痛烈な批判を発信するようになりました。以下葬霞氏のインタビュー内容（文芸春秋2023年1月号）を紹介します。

中国共産党と絶縁するに至った理由は？
私が2020年8月アメリカ滞在中に国内の友人から「反中国活動をしたという理由で、当局が貴女を逮捕しようとしている」というメールが届き、帰国するのを延ばしていたらコロナが武漢で発生しました。流行初期の実情を隠蔽し、それを告発した医師の李文亮を処分し、本人がコロナ感染死したことに憤りを感じ、言論の自由を求めるネットに書き込みました。即、当局から「即刻帰国せよ。国内に残っている家族が心配でないのか？」と脅しの電話が入りました。また私と友人との政府批判の会話録音音声が突然ネットに流出するようになり、党籍を剥奪され銀行口座を封鎖された上に、年金を打ち切ると一方的に通告されました。これは党に逆らうものは見せしめとして「生きるな」というに等しい話で、中国には戻れませんので、アメリカに亡命しました。

そして貴女はアメリカを代表するForeign Affairs誌に「The Weakness of Xi Jinping」【注1】という長文の論文を発表しましたが。
中国共産党はマフィア組織と考えた方が理解しやすいでしょう。党総書記がマフィアのボスで、その下にいるのがマフィアブラザー共、即ち党常務委員会メンバーで、極めて邪悪な統治集団なのです。そして習近平は妄想症（パラノイア）で、会議では異常に長時間の演説を好み、あらゆることに干渉する偏執的な性格で、文化大革命で十分な学問を修められなかったことへのコンプレックスが、重なり合っています。

彼を教えた中央学校の著名な教授は彼のことを「知識不狗・智商不狗」（勉強不足でIQが低い）と言っているくらいです。習近平はマルクスすら読んでいないと思います。イギリスのサンデータイムズで報じられたように、彼の中央学校博士論文は代筆者によるものでしょう。習近平が一般人であれば、個人的欠点で済みますが、彼は巨大な国家権力統治者で、その欠点はそのまま全中国国民、さらには全世界の人々の未来に不幸な影響を与えています。

中国共産党はマフィア組織と同じです	妄想狂・偏執狂が世界を不幸にします

中国共産党はマルクス主義政党だと思いますか？
厳密に言えばそうは思いません。マルクス・エンゲルスの思想は西洋から東洋に伝わる過程で、レーニンとスターリンのフィルターがかかり、中国に達した時には既に変質していたからです。マルクスの共産党宣言二章には「ひとりひとりの自由な発展が、全ての人々の自由な発展にとっての条件である」とありますが、現在の中国共産党が「全ての人々の自由な発展」など決して望んでいないことは明らかでしょう。

習近平自身はどうなのでしょうか？
習近平はマルクス主義者でも、共産主義者でもありません。彼が学んだのは毛沢東の「造反有理」だけです。毛沢東は文化大革命当時「本を読めば読むほど反動的になる」と、知識人を一斉に下放（＝地方に追放）したのです。中国共産党は元々文化的レベルの低い政党で、習近平の政治はまさしく毛沢東2.0バージョンと呼ぶしかありません。文化大革命と同じく歴史を後退させ、国家の壊死状態を加速させています。習近平体制下では自浄作用が起こるわけはなく、変化が起きるとしたら中国共産党と習近平が共倒れする形でしょう。  

習近平に台湾を得ようとする野心はあると考えますか？
はい、勿論。中国の伝統的な「大一統」（統一を是とする思想）は根深いものです。中国人の地理感覚は現代の国境ではなく、「天下」の支配者たる皇帝の統治領域は不断に拡大するというものです。それは現在中国がフィリピンの南沙諸島、日本の尖閣諸島など他国へいつの間にか入って来ているのを見れば明らかでしょう。いわんや台湾のように中国本土から逃げた漢民族が暮らす場所は中国のものである、と考えるのは必然です。仮に今も台湾が蒋介石以来の国民党独裁政権だったら、独裁者同士で水面下での交渉が可能でしょうが、民主主義国家となった台湾は、中国にとっては脅威ですから力で押しつぶすしかないのです。その延長線上が日本なので、日本は中国の邪悪な統治集団に対しては決してひるまず、強い態度で臨んでほしいと思っています。

【注１】Foreign Affairs誌　 September 6, 2022
原文は中国語で私は読めませんが下記の部分は、トップの政治局員（マフィアギャング）が18名で、そのボスが習近平で、賄賂・スパイ行為・暴力に訴えると書いてあるのではないでしょうか。??は中国漢字が文字化けしてしまったものですが、「近平」の前は「羽」に似た漢字でした。

常委之外?有其他18名政治局委?，他?可以被看作�K??目，???行?近平的指令，消除??威??患，以?博得老大的青?。中共?于使用不客气的直接手段来得到它想要的?西：??、勒索，甚至暴力。

2023/03/12 少子高齢化と共に転がり落ち続ける日本経済

1990年初頭にはジャパン・アズ・ナンバーワンなどと言われた日本の経済は、完全に勢いを失なっています。まず�@一人当たりGDPは現在世界27位の39,000ドルで、35,000ドルの韓国、33,000ドルの台湾に抜かれることは両国の勢いから言って必至です。（1位はルクセンブルク136,000ドル。アメリカは69,000ドルでイギリス47,000ドルです。）【注１】また�A世界競争力ランキング(＝ビジネス効率、経済パフォーマンスなどから算出）の1位はデンマーク、以下スイス、シンガポールと続きますが、1992年までは世界一だった日本は、バブル崩壊後凋落の一途で現在34位です。【注２】

世界の一人当たりGDP変遷(黒線＝日本）	日本の競争力ランキング

そして�Bイギリスのエコノミスト誌が、世界中で売られているマクドナルドのハンバーガー１個の値段を比較した「ビッグマック指数」(2022年7月)【注３】でも、日本は41位です。1位のスイスではビッグマック1個が＄6.71（\925)、本場アメリカで$5.15(\710)なのに、日本では$2.83(\390)です。これは中国の$3.56（￥490）、韓国の$3.50(\483)よりまだ安い。同じ物を買う購買力平価が低いということは、日本の賃金がいかに低いかということを物語っています。

日本経済低迷の発端は日本のバブル経済崩壊(1991)であることは衆目の一致するところですが、問題はなぜそれから30年間ズルズルと不況から脱却出来ず、日本は世界の二流国、三流国になってしまったか？ということです。私見ですが<1>少子高齢化という人口減少現象に正しく対応しなかった、<2>過去の技術優位におぼれ、急速に進むコンピュータ・ロボット化に対応出来なかったことが大きいと思います。

<1>に関しては経済の担い手である生産年齢人口(15〜64歳)はピーク時の8,716万人（1995）が、7,508万人(2022)と14%も減っており【注４】、一方で65歳以上の高齢者は現在全人口の29%を占めるようになりました。主たる収入がわずかな年金である高齢者が消費者ではマーケットの拡大は期待できません。そして<2>人件費の安い新興国がコンピュータ、ロボット技術を積極的に取り入れることでそれなりの品質の製品を安く大量生産出来るようになり、日本の技術的優位性はなくなりました。焦った日本はコストカットで対抗しようとしたため、本来技術生産資源である日本の若い人材は就職氷河期となり「非正規雇用者」では結婚・出産は望めず、ますます出生率が減るという、負のスパイラルに入ったことが、今日の日本経済没落の原因だと私は思います。

左の厚生労働省のデータによれば非正規雇用者の割合は1989年は男女全体で19.1%だったのに、2019年には38.3%と2倍になっています。女性労働者はもっとひどく、36%の数字が56%となり、現在働いている女性の半分以上が非正規雇用者（パート、アルバイト等）ということになります。これでは雇用・年収不安定で子供が産める訳がありません。否応なしに消費者が減る人口減少社会の日本で、豊かさを維持していくには従来の「売上増大・市場拡張第一」という発想では無理で、経営概念の転換が必要だと思います。ジャーナリストの河合雅司氏は、戦略として次の４点のアプローチを提案していますが【注５】、この位思い切って政府・企業経営者の発想を変えないと、現実に縮小(shrink)している日本は沈没(sink)してしまうと思います。

[1]人手不足・国内マーケット縮小を前提とし、拡大ではなく付加価値増加で企業維持する。
[2]現在の消費者が望むモノやサービスを提供すれば、値段が高くても販売出来付加価値を得られる。携帯電話やキャラクターグッズは、単価が高くても売り切れ品不足が起こるように需要は高い。
[3]新しいマーケットを開拓する。高齢者人口が多いのだから、高齢者用襁褓だけでなく高齢者が喜んで使う脱ぎ着しやすく、洗濯しやすい衣服などを積極的に開発・販売する。
[4]特に過疎化が著しい地方は民間企業が立地出来るような地域に人口を集中させ、そこに周りの過疎地人口も「集住」させることで、商圏規模を維持する。

過疎地住民移住　 ⇒	地方工場で活性化・商圏維持

一朝一夕に出来ることではありませんが、日本経済沈没の流れを変えるには、河合氏の提案の様に現実直視で思い切った発想の転換、即断即決実行のスピードが求められていると思います。

【注１】IMF - World Economic Outlook Databases 2022年10月版
【注2】スイスIMD（国際経営開発研究所）2022年6月　
【注3】ビッグマック指数2022年
【注4】テレワークナビ
【注5】 河合雅司：（2023/01/26週刊新潮）

2023/03/17 　石原慎太郎夫妻　愛の俳句集

2022年2月に作家・元東京都知事の石原慎太郎氏が亡くなり、後を追うように奥様の典子さんも同年3月に亡くなりました。「世間では亭主関白だと思われていた父も、実は母には優しく気を遣い、母は『趣味は石原慎太郎』という位父一筋で、夫と四人の男の子の世話、家事、選挙区回りから事務所管理まで、石原家に全てを捧げてくれました」と、四男である石原延啓（のぶひろ）さんが語っています。そして「父は母が20年に渡って詠み続けたきた俳句に、自分の句も加えて句集を出版する予定だったと知りました。母は1,500句なのに父は全部で21句。そのアンバランスさがいかにもうちの両親らしくて、可笑しくなりました。二人の夢を息子達が叶えることにし、『青葉風』というタイトルで出版することになりました」と述べ、幾つかの句に解説を付けて紹介してくれました。【注１】

石原慎太郎・典子夫妻	石原延啓氏（四男）

●初詣出　手を振る夫を　見つけたり　(典子)
背が低かった母は神社を訪れると、大勢の参拝客に埋もれてしまう。そこで父が「おーい、典子、こっちだ、こっち。何やってんだ」と手招きしている情景が目に浮かびます。
●啓蟄や　年を越したる　蜘蛛に逢ふ（慎太郎）
父が別荘の近くを散歩していたら朽ち果てた大きな屋敷があったので、何気なく中を覗いた時に詠んだ句です。
●紫陽花や　涙で描く　デスマスク（典子）
叔父の石原裕次郎が1987年に肝臓癌で亡くなった時、画家になるべく勉強中だった私に父が「叔父さんの顔を描け」と言われ、涙を拭いながら必死で描いた時のことです。この絵は石原裕次郎記念館にも所蔵されていました。
●寄鍋や　経済論争　父と子と（典子）
これも石原家ならではの食卓風景です。「酒も飲めないような野蛮人と食席を共にしたくない」と言っていた父と、鍋をつつき酒を飲みながら息子達が経済論争に花を咲かせている様子です。恐らくこの時の父の相手は政治家の伸晃か、かつて銀行員もしていた宏高だろうと思います。
●お雑煮の　こくがあるなと　夫の言う（典子）
65年以上連れ添った父と何度も繰り返してきた食卓の会話ですが、母はこのような些細なことを褒められたのが素直にうれしくて、この句を詠んだのでしょう。

【注１】文芸春秋2023年3月号

2023/03/24 竹やぶ　柏本店

千葉県柏市柏にある「竹やぶ　柏本店」【注１】は、美味しい蕎麦を出すと評判が高いので、ぜひ一度行ってみたいと思っていました。予め電話予約しようとしたら「コース以外の注文は予約を受け付けられません」というので、「じゃ、コースでお願いします」と頼むと、「お二人様以上からでお願いしています」「一人の場合はどうなるんですか？」と聞いたら、「順番でお待ちいただき、アラカルトをお願いしております」という、つれない返事。えーい、出たとこ勝負だと、開店11時30分前に着けるように計算して高田馬場からJR山手線で日暮里駅まで行き、常磐線に乗換えて北柏駅で降りました。南に歩くこと約35分、手賀沼を一望する小高い丘の上にあり、竹林に抱かれた「隠れ里の庵」といった風情を漂わせる、「竹やぶ」の凝った造りの門の前に立ちました。

門をくぐり入口の前で並んでいる人達を数えると11人。店のウエッブサイトには32席と書かれていたので大丈夫だろうと、順番待ちリストに名前を書きました。中庭へ入るとそこは蕎麦屋とは思えないメルヘンな雰囲気で、割れた皿やビー玉、そして高級腕時計を埋め込んだモダンなインテリアと、茸を想像させるオブジェまで建っていたので、伝統的な和風の門との落差に少々驚きました。

茸のようなオブジェ	中庭
腕時計のインテリア	通された絶景席

名前を呼ばれて店内で案内されたのは手賀沼が見渡せる絶景な窓際席。4人テーブルでもう一人見ず知らずの女性と相席でしたが、開店直後に入れたので文句ありません。生ビールを頼んでメニューを見ていたら、コース料理\6,000、\8,000、\10,000と書かれているので、フロアーを仕切っている和服の女将と交渉を始めました。「私、こちらのお店の蕎麦が食べたくて東京からやって来たのです。電話予約の時コース料理は2名以上と言われたのですが、何とか\6,000のコースを食べさせてもらえませんか？」最後は喰い意地の粘り勝ちで、「板前に聞きましたら多少お時間がかかりますが、何とかいたしますとのことです」となりました。私も結構図々しいですね。(笑)

日本酒飲み比べセット	日本酒飲み比べお猪口
蕎麦寿司	季節野菜の天婦羅

料理を待つ間、日本酒飲み比べセット(\1,500)を頼みました。これは田酒、八海山、黒龍など一流の日本酒8種類の中から1種類指定可、あとの2種類はお店のお任せでお猪口1口ずつ飲めるという面白いチョイスなので、2回試して計6種類飲みました。温かい蕎麦がきに生山葵と出し汁から始まるコースは、卵焼き、揚げ出し豆腐、身欠き鰊蕎、鰯のマリネ、蕎麦寿司、春野菜の天婦羅と、実によく考えられた料理が順番で少しずつ出て来ました。お酒のピッチが上がるわけです。

田舎蕎麦	せいろ白雪蕎麦

締めの蕎麦は田舎蕎麦（蕎麦の殻入り）と白雪蕎麦（殻除去）と、二つの手打ち蕎麦が出て来ましたが、つゆも薬味(ネギ、山葵、生姜)も、それぞれ微妙に変えて別々に出して来たのには驚きました。ここまで気配りしているのですね。女将が「蕎麦湯はたっぷり飲んでくださいね」と、ドーンとテーブルに濃い蕎麦湯の器を置いてくれたので、もう一度窓の外の手賀沼を眺めてから、ゆっくり蕎麦湯を飲んで、「笑ってやってください」（＝御愛想お願いします）と、すっかり打ち解けた女将に声をかけました。

【注１】竹やぶ　柏本店　

2023/03/30 ウクライナ停戦は可能なのか？

2022年2月24日にロシアが一方的にウクライナ侵略を始めてから、一年が過ぎましたが停戦への兆しは見えて来ません。池上彰氏は「ウクライナ戦争はまだ続く」とと分析していますが、その根拠は以下の１．〜３．です。 【注１】

１． プーチンは停戦することが出来ない。
�@ 開戦の大義名分は「ナチズム政権に弾圧されたウクライナ4州が、ロシアへの編入を求めてきたから」 (2022年2月24日声明) であり、
�A 「戦争を始めたのは西側諸国であり、祖国を守ることは神聖なことである」（2023年2月21日年次教書演説）のだから、
�B ロシアに編入されたとするウクライナ4州が完全制圧出来ないまま停戦することは、自国を守れなかったことになるから、プーチンの権威は失墜する。

２． ゼレンスキーは停戦することが出来ない。
「クリミアを含めてロシアに奪われたウクライナ全領土を取り戻す迄は、徹底的に戦う」と宣言して国民の支持を受けている。領土が占領状態のままの停戦は認めがたい。

３．ＮＡＴＯ始め西側諸国は引くに引けない状態でいる。
ウクライナを軍事・経済支援し、ロシアに経済制裁を続けている西側諸国は、その結果石油・食料価格急騰による経済的打撃を被り、本音では停戦を望みながらも、ウクライナ兵士を使っての西側諸国とロシアの代理戦争であるから、引くに引けない状態でいる。

私（管理人）は今回のウクライナ侵略は、一方的にプーチン・ロシアに非があると思います。何故ならば、ロシアは国連安全保障理事会常任理事国でありながら、国連憲章（第２条４項：国際関係において「武力による威嚇または武力の行使を慎むよう求める」）を公然と踏みにじり、れっきとした独立主権国家ウクライナを一方的に侵略しました。ロシア軍はウクライナの病院、避難所、市民住居をミサイル攻撃し、侵略したロシア軍兵士はウクライナ市民をレイプ・拷問・殺害する蛮行に出ています。国際社会が次の制裁４．５．を課したことで、その非は明らかです。

４．ロシアは国連で非難決議の対象となった。
2022年10月12日の国連総会で、ロシアの一方的ウクライナ東南部併合を非難し無効する決議が、圧倒的賛成多数で可決されています。

５．プーチンは戦争犯罪人として逮捕令状を出された。
国際刑事裁判所（ICC:オランダ・ハーグ）は、ウクライナから子供数百人を連れ去ってロシア国籍を押し付けたことは、戦時の文民の違法移動や追放を禁じたジュネーブ条約に違反しているとして、2023年3月17日プーチン大統領に戦争犯罪容疑で逮捕状を出しました。国家元首が戦争犯罪人として逮捕状を出されたのは、2011年6月自国内での反対デモ隊を虐殺したリビアのカダフィ大佐以来初めてです。プーチン（ロシア）に非があることは明々白々ですが、自軍兵士20万人を失い、戦車の半数近くを失ない、国内に厭戦気分が漂い政権を揺るがしかねない事態を見て、プーチンが戦局挽回のために、核兵器使用に踏み切る危険性が高まっているのが恐ろしいことです。まさに『気違いに刃物、独裁者に核兵器』の怖さです。

歴史上戦争終結は(1)Ａ国がＢ国を軍事的に撃滅して降伏させる、(2)Ａ国とＢ国とで休戦協定が結ばれ戦闘行為が終了する、の二つのパターンがあり、(1)は第二次世界大戦時のドイツ、日本の全面降伏、(2)はベトナム戦争でのアメリカ撤退などがその事例として挙げられます。【注２】今回のウクライナ戦争の停戦見通しは難しいと池上さんは分析していますが、私は核戦争を防ぐとしたらお互いの面子を立てつつ、(2)休戦協定に持っていくしかないように思います。

将来の危険性と現在の犠牲とのバランスを推し量り、少なくとも2022年2月のロシア侵略前状態に戻して、戦の鉾先を収めるしかないでしょう。プーチンはウクライナ4州は取れなかったものの、それ以前同じ屁理屈で侵略占領したクリミア半島のロシア併合を、ウクライナ（西側諸国）から認められ、ゼレンスキーは旧ウクライナ全土を取り戻すことは出来なかったものの、ウクライナ東部・南部４州を取り戻し、今迄通り独立主権国として堂々とEU加盟を申請出来ます。

というような綺麗事を好き勝手に言えるのも、銃弾のはるか届かない言論自由な東洋の島国に住んでいるからです。ネット情報を全て監視され、政府の悪口を言ったりすれば即収監され、強制労働に連行される国だったら、思っていてもこんなことはとても言えません。つくづく日本に住んでいて良かったと思うと共に、こんな平和ボケで日本は大丈夫なのか？と心配になります。 右の「日本がウクライナになる日」は、2022年6月3日にこの管理人日記で紹介してあります。【注３】

【注１】「そこからですか」：池上彰（週刊文春2023年3月9日号
【注２】 「戦争終結の全歴史を考察する」：千々和泰明（文芸春秋2022年8月号）
【注３】日本がウクライナになる日

2023/04/05 習近平の狂気

中国語に堪能な大統領副補佐官として、アメリカ・トランプ政権で中国政策任務を担当したマシュー・ポッティンジャー氏【写真右】は「習近平は中国を頂点とする新しい国際秩序を築き上げることを、ハッキリ意識している。彼の本音は対外的な会議ではなく、党内での中国語の演説に現れる。そこには外国では用いない激しい言葉で米国への敵意、台湾統合、反政府活動への強烈な弾圧が述べられ、それが党の方針となっている。中国政府はこの演説を公開せず、仮にリークする場合も、例えば『闘争』を『たゆまぬ努力』、『共通の運命』を『共有する未来』など穏やかな英語表現に誤魔化して発表するので、習近平の本音は中国語の原文を読まなければ見えて来ない」と述べています。【注１】

同氏は「習近平は2022年10月の共産党大会で周りをイエスマンで固め、今後10年間の安定地位を確立させ、『中国主導の社会主義の最終的な勝利が、資本主義の終焉となる日と共に必ず訪れる』との信念の下、『我が国と西洋諸国との闘争は和解しようがないから、必然的に戦争を通じて我々の国益を守るということになる』【注２】とまで言っている。習近平がこのような考えを抱くようになったのは、ソ連の崩壊が自身のそれとオーバーラップし、その恐怖に怯えているからだ」、と同氏は手に入れた中国語文献●から分析しています。

●ソ連はなぜ崩壊したのか。それは彼等の理想と信念が揺らいだからだ。マルクスとエンゲルスが分析したことは時代遅れでなく、それに疑問を挟んだペレストロイカ(変革)がソ連解体を招いたのだ。これを防げなかったのは党が軍、治安機関、イデオロギー、経済を独裁的に指導出来なくなったからだ。【注３】

●西側諸国は共謀して、中国共産党を打倒・転覆しようとしている。これらの脅威に対して我々は警戒を緩めてはならない。ジョージアのバラ革命(2003年)、ウクライナのオレンジ革命(2004年)などはまやかしで、これらの西洋化・分断化の口先に乗ってはならない。我々は、中国の文化的特徴を備えた発展の道を歩むことを主張しなければならない。【注４】

このような習近平が持つ世界制覇の狂気を止めさせるには、「対話による外交政策は成功しなかったのだから、米国及びその同盟国は中国への依存関係を断ち、中国に対する技術・資本・データ提供を制限して、習近平の野心を物理的に出来なくさせることだ」と、ポッティンジャー氏は提案しています。具体例として、2022年10月にアメリカバイデン政権が発表した中国に対する半導体輸出規制（＝現在年間数千憶ドルのICチップ中国に輸出）で、中国がハイテク・サプライチェーンを支配するという野望を挫折させること、アメリカ・日本・オーストラリア・インド・台湾が同盟を結び、台湾有事にはこの同盟国が戦うぞ、という軍事プリゼンス姿勢を見せておくことなどが、習近平の太平洋支配野望を抑止する、と述べています。『狂気』に対抗するには、『共闘』が必要だということです。

【注１】習近平の狂気（マシュー・ポッティンジャー：文芸春秋2023年4月号）
【注２】2021年4月人民軍将校向けの内部教材として書かれた向けた習近平主席演説。
【注３】2012年12月広東省幹部に対する非公開演説文。
【注４】2013年4月党幹部向け「文書第9号」。

<<追記>>狡猾中国は現時点の勝者(慶応大学教授　細谷雄一：週刊文春2023/02/26号)

ロシアによるウクライナ侵攻から一年が経過したが、戦争の勝者はその両者でもなく米国でもなく、中国になる可能性が高い。中国は距離を置いてはいるが中国の台湾侵攻時に国連安保理事会で中国支持を期待できるロシアとの友好関係を保ちつつ、かつ戦争長期化によるロシアの国力衰退と中国依存を期待している。「民主主義と社会主義の戦い」という二分法で、最終的には国際社会でリーダーシップを取るために次の三つの戦略を進めている。

(1)対米批判世論拡大：アメリカの中国封じ込め政策を国際世論で非難。
(2)ロシアとの友好維持：習近平はモスクワ訪問し、両国の緊密関係を再度アピール。
(3)南半球途上国の取り込み：札束で叩いた南半球発展途上国に中国支持を表明させる。

2023/04/15 上野の嬉しい店：ビールと日本酒と蕎麦TOWA

京成上野駅の真ん前、アメ横（＝アメ屋横丁）の入り口近くにある「ビールと日本酒と蕎麦TOWA」は、日本全国のクラフト生ビールを、ズラリと並んだカウンター後ろの樽タップ(注ぎ口)から注いでくれます。またドリンクメニューには「新政」、「鳳凰美田」、「黒龍」、「酔鯨」など名の知れた日本酒がズラリと書かれています。焼酎もしかりということで、二八蕎麦で締める「蕎麦居酒屋」という言葉がぴったりで、いつ来ても並んで待つのが常です。今回も10人待ちでしたが、回転も速いので15分程で中に入れました。

揚げ茄ぽん酢おろし	圧倒される日本酒とクラフトビール

エールビールと板わさ、黒ビールに揚げ茄子のぽん酢おろしと、まさに蕎麦屋でなければ食べられないつまみを口に運びながら、メニューを見ると海老天丼にせいろ蕎麦のセットが、900円という嬉しい上野・下町値段なので、迷わず注文しました。

メニュー	エビ天丼とせいろ蕎麦セット(\900)

【注１】麦酒と日本酒と蕎麦TOWA　

2023/04/21　悪党たちの中華帝国

「悪党たちの中華帝国」（岡本隆司著：新潮選書）を読みました。著者は「2022年は日中国交正常化50周年と騒いだが、『国交正常化』と呼ぶこと自体が曲者で、裏を返せばそれまでは異常な国交だったということになる。歴史をひも解くと日本と中国に『国交』が存在した期間の方が少なかった」とズバリ本質に迫ります。

7世紀迄遡ると、中国隋の煬帝（ようだい）は日本のことを「倭国」（野蛮国）と呼び、これに対して日本の聖徳太子【左画像】は「日出る処の天子、書を、日没する処の天子に致す。恙（つつが）なきや」と書面を送り煬帝を激怒させた(607年)という、有名な史実があります。つまり初めから日中国交は「正常化」でなかったのです。13世紀には中国を支配していた蒙古が二度日本を侵略しようと試みて失敗し【下画像：蒙古ゲンギス汗】、逆に日本の豊臣秀吉は中国属国であった朝鮮に二度出兵し敗退しています。

江戸時代日本は鎖国という形で日中政府間国交は棚上げにし、長崎港を通じて民間の交易のみ続けましたが、明治になると日清戦争(1894年)で両国は近代兵器を用いて本格的に戦火を交えました。日本が勝利した結果、日本は中国北部に満州国という傀儡政権国家を設立し(1932年)、1937年の蘆溝橋事件から日中両国は宣戦布告なしに、“日華事変”という体裁のまま全面的泥沼戦争入り、終戦までの8年間で日本は死者41万人負傷者92万人、中国は戦死者300万人民間市民を含む負傷者2000万人を出しました。【注１】つくづく日本と中国とは相性が悪いことがわかります。

著者はこの両国の相性の悪さを、「内戦はしながらも万世一系の天皇という国家統合の象徴を『錦の御旗』とし、国家としては根本体制を覆さず2600年続けて来た日本と、『天から使命を受けた』自分達が天下の中心（＝中華）であり、その文化・思想は神聖なものであると主張する『中華主義』により、親子の殺し合いまでして権力簒奪を繰り返し、前王朝を全て否定し、自分に都合の良い歴史書を出す中国との民族的価値観の違いであるとしています。そして中国における権力簒奪者は、その地位を侵そうとする者を『悪党』として排除するのが常である」と、唐時代の太宗とそれに弓引いた安禄山、明の永楽帝と万歴帝などの具体例を比較して歴史検証しています。

さらにこう断言します。「これは現代の中国共産党政権も全く同じで、自分以外の政党・イデオロギーは認めず全て否定するのだから、秦の始皇帝、唐の玄宗と名乗らず、中国共産党・習近平総書記と言っているだけである。しかし中央政府周縁部にある地域は外国とも直接交易し、体制も異なってしまっているので一国二制度が必要となるが、これでは周縁部は中央政府からどんどん離れてしまうので、中央政府は力づくで抑え込もうとするのである。これが現在の香港・台湾問題の本質であり、北京・上海から見た「周縁部」にチベット、モンゴル、新彊ウイグル地区が含まれ、さらにフィリピン、沖縄、そして日本をも含もうとしているのが現実なのである。」

そしてこう締めくくっています。「『正義の味方、人柄が良さそうな人を首相にしたがる』お人好しの日本人と、『自分達のことしか考えない、腕力が強い悪党が統治する』中国人とは相容れなくて当然なのである。したがって『日中国交正常化』というのは中国にとって都合の良い外交関係継続であり、日本はこの50年間その美名に騙されて金をむしり取られ、領土をじわじわ侵略されつつある。悪党統治の中国と善人願望の日本が、同じ土俵で付き合えないのは当然である。」

【注１】ジャパンナレッジ：日中戦争

2023/04/28 礼華「桜特選コース」

新宿御苑大木戸門近くにある「礼華」は上海料理をベースにして、新山シェフの工夫を凝らしたヌーヴェルシノアな中華料理が楽しめる店ですが、表のテラス席で新宿御苑の桜【下写真】を愛でながら食べる春の「桜特選コース」と、同じテラス席でストーブにあたりながら食べる冬の「上海蟹食べ比べコース」は格別です。今年3月末新宿御苑の桜が満開時、ニュージーランド産白ワインや陳年大越貴酒10年（紹興酒）と合わせて、礼華「桜特選コース」を楽しみました。

アミューズのフカヒレのゼリーよせの後、本日の前菜盛り合わせには鹿肉の肉団子、才巻海老、柏餅をイメージさせる桜の葉で包んだ蓮根、筍などの野菜を楽しみました。次の春野菜の豆乳ポタージュスープの上には桜の花びらが飾られ、魚料理はオマール海老とマンゴーをカダイフ（＝トウモロコシの粉を糸状の細い麺にして揚げたもの）で、バジルとマンゴーのソースをかけると、中華料理というよりはフランス料理のようでした。

前菜盛り合わせ	オマール海老マンゴーカダイフ

北京ダックを一個口に入れ、あぁ、中華料理だよなと思考が戻り、フカヒレの姿煮込みを口にして、そう、これが礼華の名物料理だよな、と納得しました。ところが次の肉料理は牛サーロインの鉄板焼き。春キャベツと一緒でどう見ても鉄板焼きのメニューです。かすかな柑橘味のするステーキソースは、ミカンの皮が細かく刻んで入れてありました。そして締めの麺は中華の四川担々麺。桜海老を乗せてあるのが「桜特選コース」という洒落なのでしょう。デザートと中国茶がついて\13,200（税込み）ですから、納得の値段です。

フカヒレ姿煮	四川担々?

【注１】礼華

2023/05/05 久しぶりのリバゴーシュ

コロナ禍で3年間訪れていなかった多摩市のブラッスリー「リバゴーシュ」【注１】を、久しぶりに訪れました。昔多摩市に住んでテニスをやっていた頃、毎年この「リバゴーシュ」で花見パーティをしていたことが懐かしく思い出され、旧友テニス仲間のK夫妻を誘い、私は自宅のワインセラーからとっておきの「シャトーマルゴー1999年」を持参し、シェフの峰岸さんも交えて楽しく食事団欒しました。

リバゴーシュ(2006)	若々しい峰岸シェフ(2006)	お花見人分グラス(2006)

四人でシャンパーニュ、ロゼシャンパーニュ、ミュルソー（白）、シャトーマルゴー(赤)と四本も空けてしまいましたが、「久しぶりで緊張しましたが、リキを込めて作りました」という、峰岸シェフの料理が美味しかったからでしょう。 スタートは高知のノレソレ（アナゴの稚魚）で、「お箸でどうぞ」とブイヤーベース風の味付けノレソレを、刺身の様な感覚で食べました。続いてシマアジのスモーク。テーブルに運ばれた料理にグラスのコップを逆さまにかぶせてスモークが食べる直前まで逃げないようにしてあったのには感心しました。次の牡蠣のコンフィの後に、白イカとホワイトアスパラガスの茄子ソースが出て来て、白ワインミュルソーにピッタリでした。

のれそれ	シマアジ	白イカとホワイトアスパラ

続いて焼いた鮑が出されましたが、そこにリゾットのようなものが敷かれていました。「酢飯です」と峰岸さんに言われてちょっと驚きましたが、どうして、どうして、焼き鮑の濃い目の味付けが下の酢飯と合わさり不思議なハーモニーを楽しめました。

アワビ	ミュルソーワイン	和牛ステーキ

お目当てのシャトーマルゴーは「ボルドーワインの女王」と呼ばれる柔らかい舌触りのワインですが、1999年と24年物なので充分熟成して香りが素晴らしく、目をつぶると樽の香りを感じ、最初に舌の上を転がすとメルロー品種を強く感じました。そのまま少し口の中で空気と混ざる感触を楽しみ、飲みこむ時はバランスの良さを感じました。久々に本格ワインを楽しみました。ワインに合わせて食べた群馬県産A4フィレ牛肉ステーキは、美味しい肉に美味しいワインと、言う事ありませんでした。峰岸さんご馳走様。また食べに来ますね。

【注１】ブラッスリー「リバゴーシュ」：東京都多摩市乞田688-101
ラ・プランタン TEL:0423-38-:4564

2023/05/16　神田神輿　

「江戸っ子だってねぇ」、「あったぼうよぉ（当たり前だ）、神田の生まれよぉ」で知られる、ちゃきちゃきの江戸っ子代名詞である神田。その神田をはじめ、日本橋、秋葉原、大手町、旧神田青果市場、築地魚市場など108町会の総氏神なのが、東京都千代田区外神田にある「神田神社」、通称「神田明神」です。ここの「神田祭」は江戸三大祭り【注１】の一つで、「神田囃子」が演奏される山車は、将軍上覧のために江戸城中に入ったので「天下祭」と言われたそうです。

西暦奇数年毎の二年に一度行われるこの神田祭大祭は、コロナ禍前の2019年以来ということで「ようやく声を出して、神輿を担げる」と、各町内は待ちに待っていたようで【注２】、コマーシャルにまで登場してしまいました。【注３】

江戸時代の神田祭　(C)神田祭	明治時代の神田祭　(C)神田祭

私がたまたま5月14日に亀戸天神まで散歩しようと、外堀通りをお茶の水から外神田に向かって歩いていた時、神田明神の御輿宮入（みこしみやいり）に遭遇しました。前日5月13日は各町内の保管場所に置かれていた神輿（みこし）が、それぞれ日本橋の神輿集合所に向かう行事が行われ、神幸祭（みこしまつり）と呼ばれます。これは神の御霊（みたま）を神輿（みこし）に移して、氏子地域内にお出でいただくという行事です。その翌日14日は、お出でいただいた御霊を再び神輿で各町会保管場所に戻す行事で、御輿宮入（みこしみやいり）と呼ばれています。 この日外神田では警察官に導かれた山車と神輿が車道をゆっくりと進み、歩道は神輿と同じ方向に歩む町内会揃いの法被（はっぴ）を着た男女、観光客見物人でごった返して歩けないほどでした。 「ワッショイ、ワッショイ、三密？ソーシャルディスタンス？　それ何だったっけ？　ソイヤ！ソイヤ！」といった感じでした。(笑)

ソイヤ、ソイヤ！　に組のお通りだぁ	外国人も参加

【注１】神田祭（神田明神）、山王祭（赤坂日枝神社）、深川祭（富岡八幡宮）の三つ。
【注２】令和５年神田祭 【注３】龍角散TVコマーシャル

2023/05/23　秒読みに入った中国の日本侵略（２）

６章：財界の背徳 と中国合弁解消
中国の会社法では、中国内で合弁企業を作り、その会社に三人以上の共産党員がいれば、必ず党組織を作成しなければいけないという規則があり、中国共産党への絶対忠誠を誓う共産党員から成るこの組織は『会社の利益より党の利益を優先する』ので厄介だ。民兵の軍事訓練を担当する『人民武装部』が作られ、会社敷地内で軍事訓練を堂々と行う。それだけではない。彼等は合弁会社内で不適切な会計処理（＝横領）を行なうのである。「ふえるわかめちゃん」で知られる理研ビタミンは、1994年に中国山東省にある会社を買収したが、社内の共産党組織が会社を牛耳り、理研ビタミンからの資料提供要請にも中国人副社長（＝現地責任者）が、「国機密が存在するので公表は拒絶する」と拒み、理研ビタミンはこの不正経理を東京証券取引所から指摘され上場廃止寸前まで追い込まれ、2021年に中国から完全撤退した。またスズキ自動車は1995年から行なってきた中国現地生産を、2018年に合弁会社「江西昌河鈴木汽車」の50%株式を中国側に売却し完全撤退した。【上写真(c)日刊工業新聞】鈴木修スズキ会長は中国撤退について、「ノドに刺さった小骨が取れた」と語った。【注１】

7章：学会の背徳
中国が「海外における中国語普及と各国学問交流提携」と称して、日本全国14の大学に「孔子学院」を設置し科学情報・ノウハウを盗んでいるのに大学のセンセイたちは気付かず、中国の国家プロジェクトである「千人計画」【右図】によって、高給でヘッドハンティングされた日本の研究者達の頭脳流出にも手を打たない。何しろ学会のトップ組織である日本学術会議では「戦争につながるような軍事研究をしない」と宣言し日本では軍事研究をタブーにしているのに、中国科学技術協会と技術協力の覚書を作成し、兵器に応用されるような最新知識を、惜しげもなく中国に教えているのだから、まさしく中国にとって『役に立つバカ』として利用され放題なのである。

８章：中国の浸透工作と各国の対応
2020年米国ノスティウェル国務次官補（東アジア担当）は、「中国のメディアは全て共産党の要望に合わせプロパガンダを行ない、中国の外交使節団は州のレベルまで浸透して政治家・経済人を篭絡し、中国のために行動するよう取り込もうとしている」と警告。トランプ大統領は「中国は不公正な経済侵略をしている」として、2019年に対中追加関税の5％引き上げを表明した。フランス陸軍士官学校研究センターは2021年に「中国は統一戦線工作部が世論戦、情報操作などの政治戦争を仕掛け、出先機関として世界各国に設立した孔子学院の職員によるスパイ活動を行なっている。各国で中国に協力的な人材を養成し、SNSを通じて反中国の知名人を攻撃したりしている」と警告した。

９章：外国人による特殊犯罪の増加
中国は忍び足で、時に笑顔で手土産まで持って侵入してくる(Charm offensive)から厄介だ。漢人の遺伝子には『移動』があり、いきなり武装して侵略するのではなく、異民族の住む肥沃な土地へ、土地へと移動を繰り返し、最後はそこを乗っ取ってしまうのである。しかも中国には国防動員法があるので、日本に滞在している中国人ビジネスマンが突然豹変して人民軍となり銃を突きつけかねない。埼玉県川口市芝園団地では数千人いる住人のうち半数以上は中国人始め外国人であり、自転車の盗難が相次ぎ、ところかまわず糞尿をするなどルールを守らない住人に、地元からの苦情が絶えない。また東京の池袋、新宿歌舞伎町などは中国マフィアが牛耳り、地元警察も手を出せないような状況になりつつあり、同じことは札幌のすすきの、大阪の愛隣地区などにも見られ、中国は意図的に治安の悪い場所に中国人を入植させていると考えられる。

新彊ウイグルでの実際に中国が行った手法を見てみよう。これが日本で起こらないと誰が保証出来ようか？
(1)漢人が労働者として入って来て、古くからそこに住むウイグル人と仲良く暮らす。
(2)中国政府(北京)が突如、ここは4000年前から漢人の領土であると言い出す。
(3)ウイグルの外から中国の人民解放軍が侵入し、これに呼応してウイグルにいる
漢人が武装して各地を押さえる。
(4)漢人に抵抗した者、しない者でも一方的にウイグル人を投獄監禁する。
(5)ウイグル人女性を強姦し、男性を殺害し、民族絶滅を計る。(Genocide)

埼玉県川口市芝園団地　(c)東洋経済	虐殺に抗議するウイグル市民　 (c)Newsweek

１０章：目前に迫った台湾有事
2014年ロシア・ソチ冬季オリンピック開催時にロシアはクリミアへ軍事進攻し、同地域を併合した。2022年の北京冬季オリンピック開催時に中国が台湾を侵攻しなかったのは、この年のロシアのウクライナ侵攻で世界中の目が厳しかったからである。2021年8月に日本戦略研究フォーラム（尾山太郎会長）が行ったシミュレーションによると、中国はまず台湾をサイバー攻撃し、台湾内部に反乱を起こさせ、そこに出動しようとする米軍を叩くために在日米軍基地を攻撃するが、米本土への攻撃は避け米中核戦争とならないように、裏で交渉をするというものだ。

台湾有事になれば能天気な「日本も巻き込まれるのではないか？」ではなく、間違いなく巻き込まれる。即ち台湾有事は日本有事である。中国は台湾を中国の不可分な一部だと主張するが、漢民族は「蛮族の住む土地」として、台湾を一度も統治していない。台湾と日本はどちらも民主的選挙で政府を選ぶ独立民主国なのである。どこまでも危険な独裁共産主義国家は絶えず日本の平和と安全を脅かす存在であることを忘れてはならない。

日本はいつまでも親のスネを齧る（＝アメリカに守ってもらえると甘える）ドラ息子であってはならない。世界の警察官ではなくなったアメリカが、どこまで本気で日本のことを守ってくれるか考えれば、まずは日本国憲法を改正し、自分達の手で自分の国を守るという当たり前のことを、当たり前に出来る国にしなければならない。

台湾問題(c)信濃毎日新聞	日米合同演習(c)防衛省

【注１】 日刊工業新聞ニューススイッチ（2018年12月19日）

【2023/07/14追記　中華国恥図】
1930年前後に中国（＝当時は国民党政府の統治する中華民国）で作られた国恥地図（こくちちず）は、中国が欧米・日本などの列強により喪失したとされる領土を示した地図である。そこでは沖縄を含む琉球群島、台湾（当時は日本統治下）、東沙諸島、フィリピンのパラワン島、インドシナ半島、ボルネオ島北部のマレーシア、ブルネイ、マレーシア、シンガポールのあるマレー半島、インド領のアンダマン諸島、サハリンなど多くの国の領土を含んでいる。これらの面積は中華人民共和国の国土面積の2倍を超えている。現在習近平が唱える「中華民族の偉大な復興」とは、この「国恥地図」【右上図(c)新潮新書「中国国恥地図の謎を解く（タン・ロミ著）】をイメージしていると思われる。

【2023/09/26追記　最新の中国領土】
『中国國恥地図の謎を解く』作者のタン・ロミ氏（元慶応大学訪問教授）【右写真】が、2023年8月に中国資源省が出した「2023年版標準地図」に現れた “最新の中国領土”に注目しています。【週刊新潮2023年9月28日号】

毛沢東は中華人民共和国樹立直後(1949年)の1953年、過去に中国人が活動していた「古い時代の境界線」を、紀元前2000年の殷、周、秦、漢王朝時代まで遡り、20世紀に欧米列強に侵略されるまでは、全て「中国領土だった」と主張し、一方的に「九段線」として、中華人民共和国内外に古い順に一段、二段と外へ広げ勝手に地図上に線を九段引いた。これは1930年代に中国国民党政府の統治する中華民国で作られた中華国恥地図（ちゅうかこくちちず）を基にしていた。 今回出された「2023年版標準地図」では、さらにそれが台湾の東沖に広がり「十段線」となり、しっかりと台湾を自国領土扱いしている。同時にインドとの領土紛争が続いているインド北東部のアルナチャルプラデシュ州も中国領、そして現在不法占拠したまま居座っている南シナ海域も十段線の中に入れられているので、フィリピン、ベトナム、マレーシアから反発の声が上がっている。2023年版と銘打ったからには、「2024年版」、「2025年版」とじりじり拡張し、尖閣諸島はもちろん沖縄も中国領と言い出すだろう。「嘘も百言えば真実になる」ではないが、嘘を100年言い続ければ目撃証人はいなくなり、ただ記録に残された十段線・・・二十段線が歴史となる恐れがある。日本政府がしばしば口にする『重大な関心をもって注視する』ではもはや間に合わなくなっていることに、なぜ気が付かないのだろう。

2023/05/29　中本ソムリエ Wine & Dine

資生堂グループのフラッグショップレストランである「ロオジェ」【注１】で23年間ソムリエ主任を勤めた中本聡文氏【下写真左】が、原宿にある資生堂パーラーThe Harajukuで開かれたスペシャル・ディナーでワインを担当されました。中本氏は現在日本ソムリエ協会副会長で後輩ソムリエの指導にあたる立場ですが、料理に合わせて選んだ6本のワインセレクションの抜群の相性に驚き、ワインに関する豊富な知識と巧みな話術に、時の経つのを忘れて耳を傾けました。

料理に合わせて中本シェフが選んだ6種類のワイン (→左から6,5,4,3,2,1の順）

6本のワインは上記のDine＆Wine表で示した通りですが、中本氏の説明は次の通りでした。

1.アルフレッド・グラシアンはシャンペンのクリュッグ社製品で、爽やかな酸味が特色。
２．ボランジェ・スペシャルキュヴェは通常のボランジェより瓶内熟成期間が長いので、厚みを感じるシャンパン。
３．カレンアンバーはオーストラリア・マーガレットリバーの白ワインブドウを、赤ワイン発酵製法（＝ブドウの皮を剥かないで漬け込む）で造ったオレンジワイン。因みにオレンジワイン製法は東欧グルジアが発祥地。
４．ドメーヌ・ラトゥールのミュルソーは煙香を感じて魚貝類との相性は抜群。
５．しっかりしたソースのコロッケにはどっしり飲みごたえがあるローヌのシャトーヌフドパブ。ブドウの品種はグルナッシュ、シラー、ムールヴェードルで、この「Chateau Neuf Pape」（教皇の新しい館）はローマ教皇直轄領地修道院産の由緒あるワイン。この地方は夜になると風が冷たいが、昼間の太陽光で温めれた石が地面の下のブドウ根を守るで、絶妙なバランス 取れたブドウ品種なる。
６．モレイ・サンドニはフランスのベルジー村で作られる典型的ブルゴーニュ赤ワイン。ロマネコンテ畑とよく似た土壌なので奥行きが深い喉越しを感じる。

そして流石だと思ったのは、それぞれのワイングラス底の持ち手にワインの名前、ブドウ品種特色をまとめて書いたラベルを付けてくれたことです。これだと飲みながら品種の違いを確かめつつ、グラスを並べれば色の違いがハッキリわかるので大変便利です。わざわざテーブル客の名前までさり気なく印刷してあるのですから、名人は実に細かいところまで気配りするのだなぁ、と感心しました。

今日ワインに合わせて食べた資生堂パーラーThe Harajukuの料理です。(上記Dine表参照）スタートは資生堂のシンボル椿をあしらったクッキー。 フレンチの合間に100年の歴史を持つ資生堂パーラーの洋食コロッケ、カレーライスが入り、最後はしっかり苺パフェのデザートで締めました。

花椿サブレ	ホワイトアスパラガス・帆立サラダ
ミートクロケット	仔牛のモリーユ茸ソース
ビーフカレー	さぬき姫苺(香川県産）パフェ

【注１】 ロオジェ

2023/06/07　照庵（銀座）

銀座6丁目米倉理容店で調髪しながら、私のグルメ水先案内人である店長の大嶋さん【右写真：大関豪栄道断髪式で最後の整髪をしている大嶋さん】に、「今日は蕎麦が食べたいんだけど、良い店教えてれませんか？酒もつまみも美味い店を」と尋ねると、「そうですねぇ・・泰明庵は近いけど、後藤さんは何回も行ってますよね。それじゃ照庵はどうですか？」と言って、ハサミを置くと携帯電話を取り、「あぁ、米倉の大嶋です。1時間後にお客さんの後藤さんが行くんだけど、カウンター奥の席空いてる？え、予約済？入口に近いところしかない？じゃ、そこでもいいから席一つ押さえてよ。そう、後藤さん」と、即電話予約してくれました。

コリドー通りを新橋方面に向かい、米倉から徒歩5分程の距離にある「おそば照庵」の暖簾をくぐると、8席のカウンターは私の席以外は全てお客さんが入っているので驚きました。もらった店の名刺を見てまたビックリ、何と夜の営業時間は17:30〜02:30！【注１】成る程、銀座のクラブが店を閉めると、お客がホステスを同伴してここで真夜中、酒を飲みながら蕎麦やつまみを食べる、という訳ですね。 カウンターのすぐ後ろに大きなおでんの鍋があり、生ビールと同時におでんを3品（大根、玉子、ウインナ巻き）頼みました。「苦手な食材ってございますか？」とママさんに尋ねられたので「いや、嫌いなものはありません。何でも食べます」と答えると、春人参とトウモロコシを追加して「大嶋さんの紹介ですので、これはお近づきの印にお店からのサービスです」と出してくれました。いやはや水先案内人様々です。(笑)

メニューをじっくり読むと、つまみもお酒も豊富なので生ビールの後にニッカウイスイキーの炭酸割りを頼み、それから日本酒を料理に合わせて1合ずつ飲んで見ようと決めました。最初はマグロの山かけを注文、コクがあってバランスが良い「新政」純米吟醸酒(秋田)にしました。次の焼き鳥タレ一本には同じ新政酒造のフルーティな「亜麻猫」、最後の締めの田舎蕎麦には私の大好きな「黒龍しずく」（福井）を、じっくり味わいました。

お酒ごとにたっぷり皿にこぼした枡とぐい飲みを変えてくれるので、テイスティングもやりやすく、「お冷やをいただけますか？」と水を注文したら、「あ、和らぎですね。氷は入れますか？常温がよろしいですか？」と聞かれました。「お冷や」を「和らぎ」と言われたのは初めてですが、どことなく花街っぽい感じです。ひょっとしてこのママさん、もと新橋芸者だったのかな？などと勝手に想像してしまいました。(笑)　そして店の壁には「笑照」と素晴らしい筆遣いで、しかも文字が笑顔に見える色紙が飾ってありました。これで「少々」と読ませるのだとしたら、お洒落ですねぇ。

マグロ山かけ	田舎せいろ蕎麦	焼き鳥

【注１】おそば照庵　東京都中央区銀座7-2-12　　TEL 03-3571-1048
営業時間11:30〜15:00、17:30〜02:30

2023/06/11　村さんの鰻

東中野の割烹「岸由」【注１】の坪島さんから、「四国の天然鰻が入りました。キープしておきますか？」と連絡が来ました。「村さん【注２】のものだったら勿論、リーチ！」と返事し、翌日食べに行きました。坪島さんが村さんと取引するようになったのは、岸由の取引先の酒屋さんから、「いい魚を送ってもらえる漁師さんがいるけど、どう？」と紹介してもらってからのお付き合いだそうです。

村さんは「すきやばし次郎」【注３】の次郎さん（＝小野二郎氏)【右写真：2014年4月に来日したオバマ大統領に鮨を握る次郎さん(C)BBC】に、そのヒラメの素晴らしさを認められた【注４】徳島県のカリスマ漁師です。村さんのこの逸話を紹介したTV番組「情熱大陸」で、村さんの魚の調理場面を撮影した時は、「岸由」で坪島さんが行なったそうです。そんなご縁で現在は、村さんが魚を釣ると現地からこだわりの輸送方法で、直接「岸由」に送られてくるそうです。ということで、私は、村さんの魚が届いた時は、即坪島さんから電話(メール）で連絡をもらえる、という恩恵にあずかっている訳です。

今回、村さん【左写真 (C)murasan.com】から3本届いた鰻（合計2.1kg）のうち、私はそのうちの一本の半分260gを、白焼きで半分、残り半分を蒲焼にして炊き立てご飯と一緒に食べました。残りの鰻は別のお馴染みさんが既に予約済のようです。養殖の鰻は腹が白いのに天然の鰻はそこが黄色いので、料理人はすぐわかるそうです。当然ながら都市ガス比4倍の赤外線を出すという【注５】備長炭の炭火焼きでじっくり仕上げています。 鰻が焼き上がるのを待つ間、マスノスケ（キングサーモン）と鯛のお造り、そしてマスノスケと椎茸のお椀でゆっくり日本酒を飲みながら、調理場から漂って来る鰻蒲焼の香りを楽しみました。焼き上がった村さんの鰻は臭みが全く無く、ふわふわの食感、皮はパリパリでした。私は東京始めあちこちの鰻店で天然、養殖鰻を食べましたが、この鰻は何か別格という感じがしました。

村さんの鰻	マスノスケ椀
鰻の白焼	鰻の蒲焼と炊き立てご飯

【注１】岸由　【注２】漁師村公一　【注３】すきやばし次郎 【注４】シェフの美味しい話　
【注５】炭火料理が美味しい理由　

2023/06/20　お久しぶりです、レフ・アオキ

予約がなかなか取れなく、ほぼ半年行っていなかった東銀座の「レフ・アオキ」【注１】を訪れました。「日本人ぽいフレンチではなく、本当のフレンチを目指す」シェフの青木誠さんは、季節の素材を凝った調理方法で出してくれました。 この日のメニューは(1)帆立貝のムースを詰めた花ズッキーニ、(2)エスカルゴとフランスパンのサンドイッチ風串刺し、(3)三種類のアスパラ（緑、白、野生）とサマートリフのサラダ、(4)アーティチョークと赤座エビのリゾット、(5)マハタとジャガイモブイヤベース、(6)北海道産仔羊のロースト、(7)チーズ盛り合わせ、(8)苺とプルーンのデザートでした。

エスカルゴとフランスパン	メニュー	ピノノワールワイン

他のお客さんが帰った後、デザートを食べ終わったのにお姉さん（＝誠さんの姉三代子さん）に、「お姉さん、もう少しワインもらえます？」とお願いし、お二人とパリ時代の思い出や、一緒に旅行したモロッコの話に花が咲きました。気がついたら夜の22時。スタートしたのは18時30分でしたから、3時間半も食べて飲んで、お喋りしていたのですね。コロナ規制がなくなって良かった。(笑)

花ズッキーニ	三種類のアスパラサラダ
赤座エビリゾット	北海道産仔羊ロースト

【注１】レフレアオキ：東京都中央区銀座3-12-6　 TEL:03-6264-3959
ランチ12:00〜14:30 ディナー18:00〜22:30　＜月曜日定休＞

2023/06/27　昭和の輝ける日本人

文芸春秋2023年1月号で取り上げられた「101人の輝ける日本人」の中から、私が子供の頃、あるいは長じてからもTV画面で「輝いていた昭和の日本人」だったと思う2人を選び、その人に近しい人々が書いたエピソードを紹介したいと思います。昭和時代に感動と興奮を与えてくれたこの二人の男達は、日本国籍だったけれど台湾人、朝鮮人だったということに改めて感慨を抱きました。

王貞治（プロ野球選手）by鹿田幸江（実姉）

母の登美が弟の貞治(当時4歳)を背負い、私（同12歳）の手を引いて、向島の家を飛び出したのは昭和20年(1945年)3月10日未明のことでした。空襲に来たアメリカのB29爆撃機は300機だったそうで、周囲は火の海でしたが、父仕福は自分の店「五十番」（中華料理店）を守るため家に残りました。あの夜のことは今も忘れません。その日は北風が強く火の手が北から襲ってきたので、旧中川にそって南へ、南へと逃げたんです。貞治は母の背中で眠っていましたが、「空が真っ赤だったことははっきり覚えているよ」と言っていました。

黒煙がかぶさると人々はバタバタ倒れていったので、母は虫の知らせか私の手を引いて踵を返して住宅街に戻り、神社を見つけて境内に入り、古い祠のそばで貞治を背中から下ろして三人でうずくまったのです。後年地図を見たら私達がいたのは白髭神社でした。周囲の建物は全て焼失しましたが、神社の一部だけは火の手を逃れました。古い祠が私達を守ってくれたのです。

夜が明けると私達はとぼとぼと歩いて「五十番」に戻りましたが、見渡す限りの焼け野原、裸足になると地面が火傷しそうなくらい熱かったのをよく覚えています。私達の家はすっかり焼け落ちていましたが、父は無事でした。裏のどぶ川に飛び込んで店が焼け落ちる瞬間を、見届けたということでした。長男も、次女も難を逃れ、家族6人全員無事だったというのは、本当に奇跡だと思います。末っ子の貞治は帰り道も母の背中で寝ており、家についてもまだ眠りこけていました。「おい、まさか、死んでるんじゃないだろうな」と父が心配そうに顔を覗くと、母は「貞ちゃん、貞ちゃん」と貞治を揺さぶりました。すると貞治は大きな目をパッチリ開けて、「ぼく、おなかすいたよ」と言ったので、みんな大笑いしました。「こりゃ、ひょっとしたら大物になるかもしれんぞ」父は声を張り上げました。

力道山(プロレスラー)　by張本勲（元プロ野球選手）

力（りき）さんに頬っぺたを殴られたのは、赤坂にあるマンション最上階のご自宅に伺った夜でした。お手伝いさんも追い出し鍵をかけた部屋で、力さんは背中を丸めてラジオのダイヤルを回し、祖国朝鮮半島の電波を探っていました。かすかに音楽が聞こえてくると小躍りを始めたので、「懐かしいなら、なぜ祖国のことを堂々といわないんですか？」と聞いたんです。その瞬間「貴様に何がわかるか！」と平手が飛んできた。力さんの胸には深くしまい込まれた思いがあったのです。力さんと初めて出会ったのは1960年の秋、銀座の焼き肉店でした。なにしろ相手は自分よりも15歳上の「世界の力道山」、私は20歳の入団2年目の「東映の張本」でしかありませんから、直立不動で挨拶しました。生身の力さんは本当に格好いい。座るなりコップの水を飲み干すと、生卵をかけたユッケを3皿も平らげました。

力さんの格闘技に命を賭ける姿には、スポーツマンとして感銘を受けました。後に横綱になる若乃花さんから聞いた話では、相撲部屋兄弟子の力さんの稽古があまりに激しいので、ある晩琴ケ浜関と一緒に部屋から逃げ出そうとしたら、力さんに見つかりそこからまた稽古。「このままでは殺される」と恐怖を感じた若乃花さんは、死に物狂いで力さんの脚に噛みついたそうです。実際力さんの脚に残った大きな歯形を見せてもらったことがありますが、リング上で足首まで隠れる黒いタイツを穿いたのは、その古傷を隠すためでもあったんです。

男が男に惚れるという言葉がありますわね。怖いけれど身体ひとつでアメリカに渡り、一歩間違えれば命にかかわるプロレスに身を投じ、編み出した空手チョップ一本で成功をつかんだことに、まだ若かった私は惚れましたね。私が殴られた夜、力さんが言ったのは「植民地時代、朝鮮人は虫ケラのように扱われたんだ」ということ。野球選手だったため朝鮮出自を隠さずに済んだ私には、わかっていなかった。力さんは「俺を日本人だと思うから、ファンは俺を応援してくれる。朝鮮人だと知れば失望するだろう」と、それはそれは悲しそうな顔で言ったので、私は胸が痛みました。入団4年目に東映が日本一、私がMVPを獲ると力さんは自分のことのように喜んでくれて、自腹でホテルの宴会場を借りて盛大なパーティを開いてくれました。翌年赤坂のクラブで口論になった男に腹を刺されてなくなったのは、まだ39歳でした。手術後急変の知らせに病院に駆け付けたのですが、死に水は取れませんでした。