５章：高知中央市場見学

翌朝７時過ぎ、二日酔いでふらつく足で高知中央市場にたどり着くと、丸一横山商店では横山社長が忙しそうに働いていた。私達の姿を見るとニッコリ笑いながら「今日はインターネットからの注文が多くて、朝から発送が大変なんですよ」と、話しかける。「横山さん、今朝も４時から？」と太陽の光がまぶしい私が尋ねると、当然ですよと言わんばかりに頷く超タフガイ。横山社長の案内で野菜のセリ風景や、鮮魚市場でのマグロの解体風景、藁を燃やして作る本格的鰹のたたき実演風景などを駆け足で見せてもらった。横山商店の二階にはコンピュータ・プリンターが各２台ずつ設置されており、伝票はすべてPOSシステム(注4)で、瞬時にして当日の売上げ、利益、過去４ヶ月の平均売上げ・仕入れ、昨年同期との比較が出来るようになっており、刻々と変わる需要に応じて仕入れられるようになっている。具体的な入力方法と昨年同期との対比を見せてもらった私が、「こんな細かい部分まで対応しているソフトはどこの会社が作ってくれたんですか？」と尋ねると、横山さんは「市販のパッケージソフトではここまで対応出来ないので、全部私が作ったんです」と、事もなげに言う。「そう言えば他のお店では、複数の女性が手書きで伝票を書いていましたね」とワイフが言うと、「こういう商売では一点一点は金額が少ない割に、多品種で毎日の伝票枚数がもの凄い数になるので、従来のやり方では人海戦術でこなすしかないのですよ。でもそれでは瞬時の集計も出来ないし、毎日現金の出入りを合わすのは大変だし、時には不正の温床になりますからね」、と昨晩ニコニコ気持ちよさそうにカラオケで「神田川」を歌っていた横山さんの顔は、厳しい経営者の顔に変わっていた。

(注4)POSシステム：Point Of Saleｓ 売り渡した時点で各店舗端末機にデータが入力され本部で即時集計出来るシステム

丸一横山商店	鰹	マグロの解体	藁で焼く鰹のたたき	野菜市場セリ風景

市場の仕事が一段落したので、横山さんの案内で高知市中心部「はりまや橋」の郷土料理の店で昼食を一緒に食べた後に、我々は往きと同様真っ赤なボルボで空港まで送ってもらった。楽しかった酒と料理と祭りの日々を振り返りつつ、何から何までお世話になった横山さんにお礼の言葉と共に、お別れの言葉を投げかけた。
「ほんなら、いっぺん東京へ来とうせや！」（＝今度は一回東京にお出でくださいね）　　　　【2004年8月15日　校了】