７章　マグレブ

　四日目は朝食後、3台のタクシーに分乗してホテルから15分程の距離にあるスーパーマーケット「マルジャン(Marjane)」へ繰り出す。食料品はもちろん、衣料・雑貨・文房具・自転車まで売っている近代的な欧米風スーパーマーケットである。値段もきちんと値札に書かれており、お土産用のナツメや香辛料などを求める時も「いくらに値切れるのかな？」という心配をせずに、ポンポンと買い物籠に入れてレジに並べばよいので助かる。支払を済ませて「マルジャン」出口付近で集合時間までブラブラしていたら、マクドナルド店が目に付いた。マラケッシュで初めてお目にかかった。全く読めないアラビア文字の下にマックアラビク（Mc arabique：アラビア風マック）というフランス語と、昨晩食べたパスティラ風のパイ皮に挽肉が包まれた、ご当地特産のマクドナルド商品の写真があることに気付いた。早速買い求めて食べてみると、挽肉は羊肉のミンチで、辛いチリソースが、柔らかいパイ皮と相まってなかなか美味しい。

午後5時45分、陽が落ち始めたマラケッシュ空港を飛び立ったロイヤルモロッコ航空9748便は水平飛行に移り、オート・アトラス山脈を背にして北西方向へ進路を向ける。窓から見下ろすと、カスバ（kasba：城塞）とその中にあるレンガ家屋の街並みや、城塞の周囲に点在するオアシスの緑、そして大地が剥き出しで天空へ向かって伸びる山々に、西に沈む夕陽が柔らかく赤い光を注いでいる。ここが「日が西に没する大地（マグレブ）」モロッコであるということが実感できる。この夕陽の下で牧童達は家畜を小屋に連れ戻し、主婦達は家の竈に火を起こして夕食の準備をするのであろう。やがてコーランの祈り声が城壁の中に響き渡り、星がまたたくようになると、昔はラクダの隊商達が灯台代わりにしたというミナレットの上に灯りが灯るのだろう。そのはるか上空を我々が乗った飛行機はパリのオルリー空港を目指し、黄昏の地中海を抜けて、ヨーロッパ大陸へ向かっていくのであった。　　　　　　【2009年10月15日　校了】