その１：NH２１５便（東京→パリ）

東京・羽田空港とパリ・シャルルドゴール空港を往復 する全日空（ANA）直行便は、往NH215便（飛行時間 約13時間）、復NH216便（同約12時間）ですが、ビジ ネスクラスの座席は180度水平になるので、食事後は 座席をベッドの様に倒してぐっすり眠れます。家から タクシー30分で行ける羽田から、乗り換えなしでパリ・ 東京を往復出来るANAは便利で快適なので、5年前から 遠くて不便な成田空港を利用することは、殆どなくなり ました。しかも羽田空港国際線ロビーには、多摩市の 「エルダンジェ」で親しくなった豊嶋誠司シェフ【注１】が「ボングー」というレストランを開いているので搭乗チェックインを済ませた後、彼の店に顔を出して、ワイングラスを傾けながら出発前のひと時を、昔話をしながら過ごしました。 【左端：豊嶋さんの等身大ポスター、右端:本物の豊嶋さん】

　 午前11時15分定刻通りに離陸したNH215便は、 日本出発便ゆえ新鮮素材が行き届く和食（ホタルイカ の木の芽味噌和え、ワカメ酢の物、トリガイと筍、鯛の昆布締め、佐賀牛味噌焼き）を食べながら、以前から 見たいと思っていた「Darkest Hours（邦題：ウィン ストン・チャーチル／ヒトラーから世界を救った男： ジョー・ライト監督、ゲイリー・オールドマン主演＜アカデミー主演男優賞受賞＞）」を座席TVで鑑賞しました。この映画はナチス・ドイツのアドルフ・ヒトラーが、スペイン内乱介入(1937年)、オーストリア併合(1938年)、チェコスロヴァキア・ポーランド侵略(1939年)、フランス占領(1940年)とヨーロッパ大陸を破竹の勢いで席巻した時、英国でドイツに対して宥和政策を取っていたチェンバレン首相に代わり挙国一致内閣を率い、ナチスと戦い勝利したウィンストン・チャーチルの不屈のジョンブル魂【注２】を描いたものです。

映画の中でチャーチルは軍事的に圧倒的に不利な 状況下で、英国議会で次の様な就任演説をして英国民を鼓舞します。『ヨーロッパの多くの歴史ある有名な土地が、すでにナチス・ドイツの占領下にある。 まさにわが国に取って真っ暗闇状態(darkest hour) だ。しかしどれだけ犠牲を払おうとも、我々はこの島国を守る。我々は海岸で、滑走路で、野原で、 道路で、丘で、戦う。我々は決して降伏などしない。勝利なしに生存はありえない！ 虎に食われてからでは道理を説くことはできない！』この演説に議会は興奮のるつぼとなります。首相の地位を退いても、ドイツと講和条約を結び英国の存続を図ろうと裏で画策していたチェンバレンは、こう呟きます。「あの男は言葉の力で英国民の心を一つにしてしまった。」見ていて思わず食事を運ぶ箸が止まってしまうような、迫力ある演技でした。

その２：NH２１６便（パリ→東京）

パリから東京へ戻る帰りのNH２１６便で面白 いなと思ったのは、フランス語で案内される機内安全案内ビデオです。歌舞伎役者が、大袈裟な所作で乗客役を演じます。煙管で煙草を吸う粋な姉さんの肩をポンポンと叩いて、「禁煙」と教えるのは黒子衣装の男性。隈取りも鮮やかにカッと目を見開きゆっくり顔を動かす役者の顔の両脇に、「非常用酸素マスク」が上からスルスル降りて来て、着用方法の説明に入ります。「非常脱出の際は、通路を慌てずに歩いて脱出口へ向かって下さい」という案内に合わせて、 弁慶がトン、トン、トンと跳び六法を踏みながら、通路を非常口に向かう映像には思わず吹き出してしまいました。しかも字幕とアナウンスがフランス語(Les masques a oxygnen tomberont….)なのですから。ANAも、なかなかやるじゃないですかぁ。。。。

【注１】銀座「レザンジュ」、多摩市「エルダンジュ」シェフだった豊嶋さんは、人気TV番組「料理の鉄人」に出演し、牛乳を素材としてフレンチの鉄人シェフ坂井宏行氏と戦いました。

【注２】ジョンブル(John Bull)魂とは、ピンチといえども慌てず迷わず不屈の精神を持つ典型的な英国人気質を指す。
【参考文献：「ジョンブル魂」（加藤元著：鳥影社）】