エピローグ：由美の手料理・パリの夕立、涙雨

5月6日はパリ最後の日。どっさり買い込んだパリ土産をオペラ座通りにあるヤマト運輸パリ支店に運び、日本に発送してもらう手続きをする。送料・保険料はかかるが、ワインを12本も抱えて飛行機に乗るなんてことは到底出来ないので、やはり便利な黒猫ヤマトの宅急便！ということになる。四泊した快適なHotel du Louvreを正午にチェックアウトして、サントノーレ通り(Rue St. Honoret)に沿って由美のアパートに向かう。途中花屋で花束を作ってもらい、スーパーマーケットでワインを一本買って、約束の午後１時にトントンと由美の部屋をノックする。「いらっしゃーい！」と由美・真理が迎えてくれた食卓には娘二人の合作手料理が我々を待っていた。インゲンと生ハムのサラダ、スモークサーモンとタマネギスライスケッパー添え、メキシコ風サラダ、牛肉のたたき、ラタトウユ（＝フランス風野菜料理）、ベトナム春巻き、それに近所で評判の焼きたての美味しいフランスパンが添えられていた。ちょっと気取ってグリーンのテーブルナプキンと四人前のナイフフォークセットを置いて、買ってきた花を花瓶に生けてワインのコルクを抜けば、楽しいファミリーランチの始まり始まり！楽しかったこの9日間の話に花が咲いた。

パリ最後の食事を終えて、出発までの時間を下町レアールを散策して過ごす。手持ちのフランもタクシー代を残して殆どなくあり、あとは空港でビールでも飲むかなと思っていた矢先、空が一転曇りだし、ポツポツという雨足と共にもの凄い雷鳴が鳴り響き、いきなり夕立が道行く人々にたたきつけられた。慌てて商店の軒下に避難して雨が上がるのを待つが、一向に雨足が弱まる気配がない。出発までまだ時間にゆとりがあるとはいえ、仕立屋でサイズ直しをした私の背広が出来上がる約束の時刻となってしまった。軒下で待つこと25分、ホテルに預けてある荷物も取りに行かねばならぬと考え、私はずぶ濡れになるのを覚悟で、雨の中を走り出した。「もうじき雨が止むのに、ほーんとうに父は気が短いんだからぁ。。」と、パリの天気に慣れっこの由美が口をとがらせて後から続く。由美のアパートに走り込んで、バスタオルで頭をゴシゴシ拭いて、「それじゃ皆は18時にホテルのロビーに来てね。空港までのタクシーを予約してあるから」と言い残して、小降りになって来たサントノーレ通りを仕立屋「Ｂｏｓｓ」目指してひたすら走る。出来上がった背広の大きな箱を抱えてホテルに戻ったのは17時55分。グシャグシャになった帰り支度の服装のまま四人はタクシーに乗る。そこからシャルルドゴール空港までの30分間は、コックリ、コックリ、全員居眠り状態だった。

搭乗手続きを済ませてひと安心して空港のカフェでビールを飲みながら、余っているフランを全部由美に渡した。「私が寄付金額トップよ！」と真理。5月20日に誕生日を迎える由美のために、三人がバースデーカードに寄せ書きをした。『お姉ちゃん、今回アパートでお姉ちゃんと一緒に暮らして楽しかったよ（真理）』、『中華街で買ってくれると言っていた激辛ソースを忘れずに送ってね』（ママ）、『パリで楽しく暮らしていることは良くわかったけど、勉強もしっかりね』（父）。出国手続きをするため由美といよいよ別れる段階になると、涙もろいワイフは目元がウルウルしだす。由美もつられそうになるのを振り切ってカラ元気で、「バイバイ、まったねぇ〜」と手を振る。あとで聞いたら空港からの帰りのバスの中でバースデーカードの寄せ書きを読みながら、オイオイ声を出して泣いていたので、バスの運転手に「マドモアゼル、大丈夫ですか？」と心配されたそうだ。由美、またパリに来るからね。A bientot!（アビアント）、アンニョンヒ　ケシプシオ（韓国語）、そしてサヨナラ。。。

【2000年5月25日　記】

娘二人が作る料理	手料理でお別れ	由美、また来るからね	ポンピドー センター