３章．エカテリナ宮殿

ピヨトル大帝銅像

琥珀の間

エカテリナ宮殿

エカテリナ１世

7月26日土曜日の朝６時頃時差ぼけを殆ど感じず目覚めたので、聖イサク寺院前の公園を散歩する。そこには元々フィン人の漁民しか住んでいなかった寂しい沼地を、近代ロシア国家建設のための海の窓口として首都サンクトペテルブルグに築き上げたピヨトル大帝の銅像が建てられている。銅像の波形の土台は海への出口を開こうとするピヨトル大帝の意思、後ろ足で立つ馬は遅ればせながらも発展するロシアを、馬に踏まれる蛇は北方戦争(1700-1721)で戦ったスエーデンを意味し、ロシアの勝利を象徴しているのだそうだ。ホテルに戻りビュッフェスタイルの朝食を食べたが、日本人観光客のために味噌汁と、かっぱ巻きまで有るのには驚いた。午前9時30分にガイドのエレーナさんがやって来て観光に出発。彼女はプーチン大統領の母校でもあるサンクトペテルブルグ大学で日本語を学びガイドをしているそうで、芥川龍之介、三島由紀夫などの作品をよく知っていた。

はじめにサンクトペテルブルグ郊外にあるプーシキン市まで車を飛ばし、エカテリナ宮殿を見学する。この「エカテリナ宮殿」はピヨトル大帝の妃である「エカテリナ１世」に、大帝が贈った地所が始まりで、その後二人の娘であるエリザベータ女帝の手に移った。更に孫であるパブロにドイツから嫁いできたのが、34年間女帝として君臨した有名な「エカテリナ２世」であり、彼女によってこの宮殿の増改築・造園が行われたそうである。エカテリナ宮殿観光の目玉は、壁が琥珀で埋め尽くされた有名な「琥珀の間」である。この部屋は第二次大戦中ドイツ軍により略奪され荒廃したが、本年(＝2003年)、建都300周年記念に修復作業が完了し、サミット会議に合わせたこけら落としにはプーチン大統領、シュルーダードイツ首相と共に、日本の小泉首相も出席したそうだ。

ドイツとロシアは２０世紀に起こった二度の世界大戦でいずれも敵国として戦っている。 もともとピヨトル大帝が1703年に建設して名付けたサンクトペテルブルグというドイツ風の呼び名は、第一次世界大戦時の1914年、ペトログラードとロシア風の呼び方に変えられた。さらに1924年ロシア革命の父レーニンの死亡後レニングラードと改名されたが、ソ連邦の崩壊で1991年に元々の名前であるサンクトペテルブルグに戻った。この「琥珀の間」が略奪された第二次世界大戦中1941年末から1944年1月まで、レニングラード市はドイツ軍に完全に包囲された。はげしい戦闘、病気、飢餓により、およそ125万人の市民が死亡、1万をこえる建物が全壊もしくは半壊したといわれる。ガイドのエレーナさんの話だと、死者のうち64万人は餓死者であるという。何しろこの時レニングラード市民に配られた食料は、一日僅か125ｇのパンだけだったそうである。

続いて江戸時代に日本からの漂流民である大黒屋光太夫が、はるばる極東からペテルブルグへやって来て、時のエカテリナ２世に拝謁した場所である「絵画の間」へと歩みを進める。更に幅17ｍ長さ47ｍという広間に696本の蝋燭を灯して踊ったという「舞踏の間」 の豪華さにため息をつく。ここでは現在でも舞踏会やコンサートが開かれ、イギリスの歌手エルトン・ジョンはチャリティコンサートを開き、その収益金をエカテリナ宮殿修復費用に寄贈したという。宮殿の外に出て庭園を散策し、最後に出口付近の琥珀製品売り場でワイフがブローチ買い求めた時、すぐ隣りで買い物をしていたアメリカ人女性が「私もそれが欲しい」と言い争いになったが品物が一つしかなかった。「早い物勝ちなんだから、私のものよ」(It’s mine. First come, first served!) と英語で頑張って絶対に譲らなかったワイフは、日本語で私に「負けるもんか！私はショッピングのプロなんだから！」と胸を張る。そう、確かに彼女は世界中どこへ行っても買い物は一人で出来る「欲しい欲しい教」教祖なのだから。。。