４章．ピヨトル夏の宮殿

ピヨトル大帝像

夏の宮殿から海を臨む

夏の宮殿噴水と花壇

午後から訪れたのはピヨトル大帝夏の宮殿だが、別名噴水宮殿と言われるように敷地内のあちこちに噴水がある。中でも観光客に喜ばれていたのが、突然水が噴き出す「びっくり噴水」と呼ばれる仕掛けである。通過する人の体重でボタンが作動するようになっていると聞いていたが、どうやら作業員が見えないところから遠隔操作している感じである。ちょうど夏の暑い盛りで、子供達は最初から水着になって無邪気に水浴びをしていたくらいであった。

サンクトペテルブルグでも一、二を争うレストラン「セナット・バー」で美味しい夕食を食べホテルへ戻ると、「部屋で二次会をしようよ。ワインを持って来ているんだ」とI君。グラスを持って彼等の部屋を訪れると、彼がモスクワから持参したワインはフランス五大シャトーワインのひとつである「シャトー・ラトゥール」のセカンドワイン「ラトゥール・フォレット」である。部屋の冷蔵庫に入っていたおつまみのナッツで食べるにはもったいないほどの上物である。−　と言いつつ結局その壜を空にしてしまい、奥方連中が世間話に夢中になっている隙に、「ちょっと表のバーに飲みに行くよ」、と男性二人がドルとルーブル札を胸ポケットにねじ込んでホテルを抜け出したのは午後11時過ぎであった。

I君が私を連れて行ったのは、サンクトペテルブルグの中心にあるネフスキー大通りの繁華街から一本外れた通りだったが、何となく危険な雰囲気が匂う一帯だった。ごろつきにからまれた時の逃げ道を計算しつつ四方八方に目を配らせながら、「I君よぉ、この辺ってヤバそうじゃない？」と、ややビビって大学生時代の口調に戻って尋ねると、「以前訪れた日本人が危険でないと言っていたから大丈夫！」と、I君の情報収集能力はナイトスポットに関しても大したものである。「あー、あった。ここ、ここだ」と入口の用心棒にI君がロシア語で話しかけ、二人分の料金を払って奥に通じる扉を開けてもらうと、なんとそこはトップレスバーだった。

※注：この写真の女性は本文とは関係ありません。当然のことながらトップレスバーでは写真撮影禁止でした。

カウンターに座ってビールを注文し、椅子を中央の舞台の方向へ回転させると、スタイルのいいトップレスの美女が、代わる代わるアップビートな音楽に合わせてステージで身をくねらせている。「Wow！これは目の保養！まさかロシアでこんな場所に行けるとはねぇ〜」と、先ほどビビッたことなどすっかり忘れて鼻の下を伸ばしている私である。舞台には等間隔で四本の鉄棒が垂直に立てられており、そこにスキャンティ一枚だけの姿で身をからませたダンサーが官能的な仕草で、これでもか、これでもか、とお客に裸身を見せつける。「オリンピック女子体操の鉄棒種目で、ロシアはいつも金メダルだったけど、こんなエロティックな演技は無かったな」、と全く場違いなことを考えていると、踊りを終えて舞台から降りて来た半裸の美女が、私の両腿の上にいきなり座り込んで「Hello!」と英語で喋りかけて来た。「オイオイオイ、どういうことになるのかね。女房連中はホテルに残っているというのに。。。」と思いつつも、相好を崩して受け答えを始めた助平な私である。

「どこから来たの？」「東京からだよ」、「名前は？」「ヤマダだよ」、「それじゃヤポンスキー（日本人）ね？」「ダー（そうだよ）」と言ったら、彼女一体何て言ったと思います？ 「ニイハオ！」ですって！　思わず椅子からズッコケ落ちそうになって、「ニイハオは中国人でしょうが！」と言ってから、何でこんなことでムキになるのか可笑しくなってしまった。さらに彼女がお尻をグイグイ押しつけて「Give me a present！」（プレゼントちょうだい！）と催促するので、最小面積しかない彼女のスキャンティの中へ100ルーブル札を押し込むと、ニッコリ笑って離れてくれた。隣のI君に迫っている女性の話を聞いていると、「私ウラジオストックにいた。日本ダイスキよ」、「別室に行キマショ。モット楽しいヨ」とさかんに誘いをかけているようだ。Ｉ君がロシア語で「見るだけよ」、と言って私と同額プレゼントを渡すと、その女性もサッと引き下がって行った。次々としつこい誘いをチップで追い払いつつ、かれこれ１時間位飲んでホテルに戻ると真夜中を過ぎていた。